第6話
そして約束の進路希望調査回収日が来た。
僕はこの1週間、頭のもやもやを払うかのように部活に打ち込んだ。結局僕はその紙を白紙のまま担任へと渡したのだった。
「はい!じゃあ次ゲーム!!1年生の子達得点板とタイマー準備して!」
「キャプテン。タイマーの使い方わからないです。」
「うちゲーム男女交代交代で回してるから女バスの子にやり方教えてもらって。」
「はい。わかりました。」
バスケのタイマーは時計ともストップウォッチとも少し違う。室内スポーツを経験している人ならわかるかもしれないが、見た目は電子蛍光板のような赤い光を放ち、大きさもタイマーという可愛げな言い表しでは収まらない机ひとつ埋まってしまうようなサイズ感だ。ブザーもなるし、得点も表示でき、さらにバスケットボールはよく時計が止まるので、このタイマーを扱うものは雑用というに惜しいくらい難しく、かつ重要な仕事なのだ。
そして監督の集合の合図で部員が集められ、ゲームのチームと作戦などのミーティングを行う。
「もうインターハイ予選が来週から始まる。今からユニフォームを渡していく。今日からスタメンとBチームに分かれて本番を想定しながらゲームをしていく。いいな?」
「はい!!!」
「今日のゲームは秋山と椎名で作戦を考えろ。あと今日からの1週間。OBの奴らに来てもらって対戦相手の戦術を使ってもらい模擬試合をしていく。いいぞおまえら。」
「おう、今年は1年生多いな!...8、9、10人もいるのか。久しぶりにお前らとやるからな。大学生というものを見せつけたるわ。」
「お久しぶりです。ゆーや先輩。先輩はそのまま大学持ち上がりでしたよね?」
「そうだよ。やっぱ大学はレベル違うわ。完全に鼻折られた感じ。でも4年あるからな、こっからこっから。」
僕はバスケットシューズの紐を入念に縛っている先輩の横で、作戦をあっくんと2人で決めろという監督の指示をすっかり忘れ喋り込んでいる。
まだそこまで暑くもない季節なのに、先輩の腕は汗が滴っていた。きっと最後の授業が終わり次第ダッシュで駆けつけてくれたのだろう。ありがたい。
「そーいやー今日は俺の大学の奴ら連れてきたからな。お前らをコテンパンにしたるわ。」
「あー、あの奥のストレッチしてる人たちですか?」
「そうそう、でけーだろ?お前らは足動いて早いけどな、平均身長が小さいのが最大のネックだ。それで監督から連絡もらって、あれなんだろ?初戦名古屋大谷だろ?くじ運ねーな。」
そう、僕たちの初戦の相手は名古屋大谷だ。前回の大会は県ベスト4に入っている。愛知は全国的にもバスケが強い方だが、その中のベスト4。正直、初戦敗退の可能性はかなり高い。
「名古屋大谷。チームバスケっていうよりは個人技が上手。そして自分たちより平均身長は8センチくらい高い。っていう感じですね。」
「あぁ、だから今日は俺のチームの中からなんちゃって大谷を作ってきた。明日は他のやつがOBで来てくれるらしいが、前々日とっ前日はこのチームで来れるぜ。せいぜい研究してくれや。」
「ありがとうございます。」
「おーーーい椎名。いつまでしゃべってんだ?作戦なんも聞いてねーだろ?大丈かお前?」
「ごめんごめん、今行くよ。」
僕はみんなの元へ申し訳なさそうに小走りで向かい、僕の5番のユニフォームを靡かせながら、大会1週間前の緊張感を肌で感じた。
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