第3話

 1週間が経ち、新1年生たちも少し新たな高校生活に慣れてきているように見える。そう思いながら、何年経っても慣れることのない桜の散っていく姿を眺めながら、自分達のバスケへの思い出もこの桜の花びらのように散っていくのかなとぼんやりしていた。

「はい、じゃあ皆さん来月は中間試験、そして期末試験もあります。来週辺りに3年生になって初めての進路希望調査を行います。もう受験のために備えて、自分たちは受験生なんだと自覚してください。この1年間の過ごし方であなたたちの人生が決まると言っても大袈裟ではありません。先生達もサポートしていきますが、目指したい大学によって指導方法も個人に合わせて行っていきます。担任の先生や進路の先生とちゃんと話し合って決めください。以上で学年集会を終わります。」

「一同、礼。」

「それでは1組から教室へ戻っていってください。」

「それと椎名君は職員室へ来なさい。」

「あ、はい。」

 学年主任の先生にそう言われ、僕は先生の後ろを気持ち離れ気味について行った。

「椎名君。君だけだよ。学年の子全員含めて話を聞かずに外を向いていた子。まぁ寝てる子もいたけどね。」

「寝てる子の方が重罪ですよ。僕は外を眺めながら先生の話を聞いて将来の事を桜と相談していたんです。」

「桜には考える頭もなければ声を発する口もないだろう。まぁね、君が部活動に励んでるのも知っているし、学力も別に悪くない。人間としても好きだ。だが君は進路希望調査今まで全部白紙だろう。私はそれが心配でね。どっか行きたい大学とかないのか?」

 職員室に呼び出された理由は意外にもお咎めではなかった。大体職員室へ来なさいと言われると生徒会でもない限り構えてしまうだろう。

 ほっとした反面先生の言っていることは事実だ。うちは進学校なので部活よりも学業に精を入れている。なので1年生の時から学期ごとにあった進路希望。これといって行きたい大学も見つからず、本当に大学に行くのが正解なのかという疑問を抱きながら、その疑問を見て見ぬふりをしてここまで来てしまった。

「すいません。来週の進路希望までに必ず考えておきます。」

「おう、これでも心配してるんだからな。部活も大変だろうが、学生の本分を忘れるなよ。」

「はい。すいません。では、失礼します。」

 もう一度深めのお辞儀と共に謝罪をして、職員室を後にした。

 学年主任の大沢先生は、一度も担任になったわけどもなく、2年生の国語の教科の担当の先生となった以外の接点はない。にも関わらずこんなにも気にかけてくれるのは素直に嬉しい。

 その期待に応えたい半分、僕は今もなお、頭の中のもやもやは残ったままだ。

 外の桜の木にはもはやピンク色はほとんど見当たらなかった。

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