第2話

「こんにちはっっ!!!!!!!」

 一年生のなんとも青い挨拶を受け、少し偉くなったような気分になり、クールぶることをここに決めた。

「おう、こんにちは。よろしく。」

 最低限の言葉に最低限の声量で僕はそう言った。

 そしたら違うパターンの先輩を演じる奴もいる。

「うん!よろしく!まだ全然部員集まってなくて練習の開始もうちょっとかかると思うから適当にボール出してシュートとか打っといていいよ!あ、タオルとかスクイーズもそんな床に置かなくても舞台の上においておきな!そこだと汚れないから。ちなみに俺福山夏哉!わかんないことあったらなんでも聞いてね!」

そう来たか。

あえて話しやすくて頼りになるお節介系の聞きにくいことはとりあえずこの人に聞こうとか、先輩と練習のペアを組まなければいけない時に真っ先にお願いされやすい友達系の先輩でいこうとしている。

 そう、誰も聞いてもいないのに自己紹介を勝手にしている彼は福山夏哉。

彼も僕と同じ3年生。

 彼の特徴はとりあえずよく喋る。そして声がデカくて早口だ。フレンドリーで明るい性格だがたまにそれが面倒臭い時もある。だがなんだかんだオフの日を一緒に過ごすことが多い。

 うちの部員は全員で8人。3年生が6人の2年生が2人だ。

 一般的な部活動と比べると人数が少ないかもしれないが、うちの学校は部活の入部が強制でないのと、そもそもそんな有名な強豪校ではないので仕方ないだろう。

 そして10分経ち、ようやく全員が集合した。

「名大高〜ファイッ!!!!!!」

「オォォ!!!!!」

キャプテン秋山の合図とともに練習がスタートするのだった。

 1年生の自己紹介を終え、アップから入り、基礎練、対人練習、試合形式のゲーム、最後にウェイトトレニーングで体を追い込み終了だ。

「お疲れ様でしたぁぁ!!!!」

「新入生どうよ???」

「んー。まだ1日じゃわからないけど、みんな素直は素直だね。けど正直特別上手な子はいないな」

「あっくん毒舌だね〜。」

「まぁ明日も朝練あるし、早く帰ろうぜ。」

「あ〜、俺残ってちょっと自主練してくわ!」

「ほどほどにしとけよー。大会近いんだからさ。あと体育館の施錠もよろしくな。」

「はいはい〜。んじゃまた明日ね〜」

 そう、僕達の最後の大会。俗に言うインターハイは4月の終わり。もうすぐそこまで迫ってきているのだ。

 皆が呼ぶように僕は秋山のことをあっくんと呼ぶ。

あっくんは毒舌だが良いやつだ。居残り練習をしているところを見た事はないが、バスケはとても上手だ。

 それに比べ僕はというと、毎日居残り練習をしている。もっと上手くなりたい半分、家が近いのも理由だ。けどそれよりも1番はこの皆んなが帰った後の一人の体育館が好きだ。

 高い天井、放課後の部活と違い人の活気や声、足音の無い静かな空間。男部員の汗の匂い。女部員の柔軟剤の香り。なぜ女性は汗をかいても良い匂いがするのだろうという疑問は3年生になっても解決しなかった。

 一人の体育館は何やら体育館と会話さえなくとも、心が通じ合ってる気がする。

「あとここでバスケができるのも後少しか。寂しくなるな!じゃあまた明日な!今日もありがとう。おやすみなさい。」

 誰も居ない体育館で、僕はそう呟いた。時計の針は夜の10時を指していた。

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