第23話 帰宅部緊急会議

 ––––––その日の夜9時。


「送信っと」


 俺は自分の部屋でノートパソコンを開き、連絡先に登録されている帰宅メンバーの二人にある招待メールを送った。


 それはリモート専用アプリの招待メールだ。


 帰宅部メンバーであるアリアと黒崎には今日、夜9時に俺の方から招待メールを送るから事前にアプリのインストールと設定を済ませておいてくれと頼んでおいた。

 二人は結局五時限目のオーラルの授業には出席せず、六時限目からの参加となったので、俺はその六時限目が始まる前の休み時間にその事を伝えた。

 ホストである俺は二人の参加を待ち続ける。誰かとツールを交えて顔合わせすることは初めての体験だから、変に緊張してしまっている。

 その緊張は何も性格からくるものだけではない。

 これから二人に『ある頼み』を伝える。そのことが最もの原因だ。


『……おっ、映ってる映ってる〜! やっほ〜きよ君』


 黒崎が参加し、ワイプが一つ追加されたところに黒崎の顔が映った。


『おう黒崎。来てくれたか』

『そりゃ来るよ〜。あんな真剣な顔で言われたらね』

『……そうか』

『うん。それにこうやってリモート形式で対話するのって初めてだし、一度やってみたかったよんだよね』

『こういうのって、全員が黒ずくめの服を着て会議をすれば悪の組織が久しぶりに顔合わせするシーンみたいになると思わないか?』

『おっ、それ分かる分かるー! 登場しているキャラは顔を出すけど、登場していないキャラはフードを被って顔が見えないとかね!』

『さっすが黒崎。良く分かっている。ああいうの厨二心がくすぐられるよな〜。一度やってみたいわ』

『こんな時間に呼び出して、一体なんの用件ですかい? 林様よぉ』


 黒崎が急に悪キャラになりきり、ドスのきいた声で問いかけてきた。俺の要望に乗っかってくれたということだろう。せっかくの場を設けてくれた黒崎に感謝しつつ、恥ずかしながらも乗っかることにした。


『そう慌てるな黒崎よ。10年ぶりの再会だ。ゆっくりと楽しもうじゃないか』

『へっ。10年経った今も、余裕綽綽な態度は変わらないですなぁ。こっちはいつでもアンタの首を落とす準備が出来ている事を忘れないことだ』

『フッ。君こそ、せっかちなところは相変わらずだな。そう焦らなくとも、No.2の君ならいつか俺を倒し、No.1の称号を手にして王の座に着くことが出来るだろう。いつになるか分からないけどね』

『ハッ。ほざけ。なんなら、今からアンタの首を––––––』

『ねぇ、いつまでこの茶番は続くのかしら?』

『『!?』』


 黒崎と茶番を続けているところに、横槍を入れてきたのはアリア。

 画面にはさらにワイプが一つ追加されており、その中にアリアの呆れ顔が映っていた。どうやら久しぶりの厨二世界に飛び込んでいた俺と黒崎は、アリアが参加したことに気づかず、そのままやり取りを続けてしまっていたようだ。え、めちゃくちゃ恥ずかしい……。


『厨二病に浸るのもいいけど、明日も学校よ? 睡眠不足はお肌の天敵になるんだから茶番はそのへんにして頂戴』

『『はい……』』


 こうして、王の座を奪い合う悪キャラは、女王様の一言によってひざまづいた。アリア、お前がナンバーワンだ……。



     ★



『ひとまず、みんな集まってくれてありがとな』

『それぐらい大丈夫よ。それで? 話って何かしら? 林くん』

『あー……いや、なんていうか』


 いざ本人達を前にしてカミングアウトするってなると、緊張が急激に高まってしまい、ごもってしまう俺。


『おいおい、No.1のくせに随分と消極的じゃねぇか』


 うん、ありがとう黒崎。お前の厨二によって大分緊張がほぐれたわ。


『今回、二人をこういう形で呼び出したのには理由がある。学校内ではどうしても会話を控えたかったからだ』


 臭男達の監視に懸念して、六時限目前の休み時間と放課後はアリア達と一切会話していない。

 スマホのやり取りだけで会話が出来ないことだけを伝え、残りの大まかな部分はリモートで伝えることにしたのだ。トークだと入力が面倒くさいのと、誤解を招く恐れがあるからだ。

 アリア達がこうしてリモートに参加してくれたのは理由を知りたがっている証拠。二人は黙って言葉の続きを待っていた。


『そして俺の立場上、今後二人と一緒にいることは出来ない。会話も禁止だ』

『っ!?』


 二人は目を開いて、絶句していた。


『それを踏まえて、二人には頼みがある』


 この後に続くセリフを聞き、二人はおぞましい顔で俺を見るのだった。

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