第3話 行方不明
夜。
月明かりが海を淡く照らし、砂浜を青白く輝かせていた。
そんな美しい風景に似つかわしくない、不穏な空気……。
「ほほう。こいつぁ……なかなかの上物だ………。お前は本当に見る目があるな。」
「お褒め下さり光栄です。」
大きな岩影に隠れるように、5人の男と向かい合って男が何やら話していた。フードを深く被っていて、顔はよく見えない。
すっかりくたびれている布を捲ると、重々しい檻が鎮座していた。
中には女性。
絶望的な瞳をして、体をロープで拘束され、さらには布で猿轡をされている。
誰がどう見ても、よからぬ光景である。
「ほら、これが報酬だ。次も頼むぞ。」
「おまかせくださいませ。」
「おまえら。運びだせ。」
金貨が入った小袋をフードの男に渡すと、男は後ろにいた4人に合図をする。
女性が何か発して身体をもがいていたが、ロープのせいで体は動かせず、猿轡のせいで何を話しているのかもわからなかった。
布が掛けられ4人の男によって、その檻はゆっくりと船に運ばれて行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌日。
シャルロッタとヴァルサを含めた5人が、テーブルを囲み話し合いをしていた。
「それでは、カーター兄弟。報告をお願いします。」
「はっ!」
シャルロッタに呼ばれた2人の男が立ち上がる。
顔は見るからに同じ。所謂双子であることがわかる。
しかし、顔は同じでも髪の色は違う色をしていた。
1人は空色。もう1人は黒髪であった。
「報告致します。」
空色の髪をした男が書類に目を落とす。一方黒髪の男は、「ふぁあ…。」と欠伸を噛み殺している。
「行方不明になったのは、この街に住む漁師の娘です。家族の証言によりますと、昨晩魚を売りに行ってくると言って出てったきり、帰ってこなかったそうです。また、目撃情報によると、浜辺で男を見かけたという連絡もあります。」
「まーーーーた、人身売買か~~~?……最近多いな………。」
「サックス。無駄口を慎め。」
「へいへい。兄貴~。」
サックスと呼ばれた男は、持っていた紙をヒラリとテーブルに置いた。
そして、面白がるようにニヤニヤしながらヴァルサの顔をのぞき込む。
「やっぱ、こういうの海賊の仕業なんなのかね~?どうなんだ?現役さん。」
「………。」
しかし、当人は何も聞こえていないかのように椅子に深く腰かけ、目を伏せたまま腕を組んでいる。
その反応が面白くなかったのか、サックスはムッとして睨みつける。
「おい、なんとか言えよ。海賊。」
「無駄口を叩くなら俺は帰らせてもらう。」
「は?」
「何か言えと言ったのはおまえだ。それに答えただけだ。」
「っ~!てっめぇ………!!!」
「やめなさい!サックス!!」
今にも掴みかかろうとしたサックスを止めたのは、厳しい目でこちらを睨んでいるシャルロッタだった。
「シャルロッタ様……。」
「今のは衛兵として、あるまじき言動ですよ。恥を知りなさい。」
「っ~~!」
「自業自得だ。反省しろ。」
「……はい………すんません。」
兄とシャルロッタに言われて、サックスは身を小さくした。
一喝したフェミアは、「だが…。」と前置きをしてヴァルサの方を見た。
「参考までに聞こう。ヴァルサ。実際どうなんだ?コレは海賊の仕業と考えてもいいのか?」
「最近じゃあ海賊でなくても人身売買をする輩がいる。だから海賊と断定もできねぇ。」
「……もしかしたら、サックス君の言う通り人身売買で売られたかもしれないなぁ。その子。」
沈黙を破ったのは、この中で明らかに年配と思われる白髪の頭をした男性であった。
「ノートン。なにか根拠は?」
シャルロッタが首を傾げて、ノートンと呼んだ男に尋ねる。
「根拠という根拠はない。だが、ここ最近の情報を合わせると、どの資料にも目撃情報で似たようなことが書いてある。……事故に巻き込まれたと考えるよりは、その5人が、何かしら関与していると考えてもいいだろう。」
ノートンが顔の前で手を組んで呟く。
その言葉に、ヴァルサはやっと目を開けてノートンの方を見た。
「ヴァルサ……。ここで君を使ってしまって申し訳ないが、今一度この件に関して調べてみてくれないか?」
「…………。」
ノートンの懇願を無言で聞いていたヴァルサだったが、直ぐに口角を上げてみせる。
「いいだろう。引き受ける。」
「………。」
そのやり取りを見ていたフェミアが、眉間に皺を寄せて視線をずらす。
「フェミア君?どうしたんだい?そんな怖い顔をして。」
ノートンが目をぱちくりさせてフェミアに尋ねた。彼は少し言いにくそうにしながらも、ゆっくりと口を開く。
「申し訳ありません。その………どうしても自分は、海賊と手を組むということに抵抗がありまして……。今でこそ大人しくしていますが、今後………分からない…と言いますか……。」
「そーそー!そのうち剣を抜いて、『この街は俺たちが乗っ取ったー!!』とか言いそう!」
隣にいたサックスが、ケラケラと笑いながらヴァルサに向かって指をさす。
「確かに、そうかもしれないわ。でも、ヴァルサのおかげで、私たちでは手が出せなかった事件が解決したことも事実よ。」
シャルロッタが、説得するように2人をしっかりと見つめた。
「それは…!」
「まぁまぁ。落ち着きなさい2人とも。確かに、海賊と手を組むと聞くと良い印象を持たない。だが、ヴァルサはこれまで、いつでも私たちを裏切る事が出来た筈だ。そんな様子を1度でも見せたかな?」
「しかし……。」
「何が正しいのか………それをしっかりと見極めないと、見えるものも見えなくなるぞ。2人とも。」
ノートンの言葉に、2人は渋々ながらも頷いた。
その様子に満足したかのように、にこりと微笑んだノートンは「さて。」と立ち上がる。
「シャルロッタ君。私はこれから見回りに………あ。いや失敬。シャルロッタ様。」
「そうですね…。今後見回りの強化をしていきましょう。どんな些細な行動も見逃さないように。それと、シャルロッタで構いませんよ。あなたは、父の代からの付き合いなのですから。」
「かしこまりました。」
一礼すると、ノートンはそのまま部屋を出ていった。
「俺達も行くぞ。サックス。」
「へーい!」
フェミアとサックスも、揃ってドアの方へと向かった。
ドアを開けて、部屋を出るその直前。
「ヴァルサ・フォングランド。」
フェミアが口を開いた。
「もし、貴様が我々に……いや、シャルロッタ様に武器を向けたその暁には、お前の仲間共々葬る。それを肝に銘じておけ。」
「そー!そー!こっちは、シャルロッタ様の味方だからな?」
フェミアとは対照的に、軽い口調でサックスが頭の後ろで手を組む。口元には相変わらずニヤニヤ顔を浮かべていた。
「勝手にしろ。」
ヴァルサの態度に、フェミアは眉間に皺を寄せて憤慨した。
「………なぜシャルロッタ様が貴様を信じているのか…………理解に苦しむ!!!!」
そう言い残して勢いよく扉を閉めるのと、シャルロッタの「フェミア!!」と呼ぶ声は同時だった。
「……。」
「ヴァルサ!……フェミアとサックスのこと、どうか悪く思わないで。あの二人は、堅実な衛兵の父親の元に生まれて、その結果あんなに厳しくなってしまっただけだから。」
無言で立ち去ろうとするヴァルサを腕に抱きつくように引き止めた。
「……わかってる。」
変わらぬ言動。
変わらぬ表情。
しかし、今日はどことなくおかしいことを、シャルロッタは見逃さなかった。
「ヴァルサ……?」
恐る恐る声をかける。
ガシッ!
「っ!?」
腕を解かれたかと思うと、突然ガッシリと腕を掴まれ、体がヴァルサの方へに引き寄せられる。
ヴァルサがもう片方の手で彼女の顎をあげ、顔を近づかせる。
(まさか…!?)
キスされる……?
シャルロッタは思わず目を固くつぶった。
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