第1話 とある海賊


とある船の一室。



キングサイズベッドの上で男が、ぐっすりと眠っていた。


両足をベッドから出し、そのうち片方は床に着いていた。

窓から差し込む陽の光に照らされて、彼の銀髪はキラキラと輝き、少し小麦色に焼けた肌がさらに魅力的に映る。

その日差しが気持ちがいいのか、男は「すー。すー。」と、小さな寝息をたてていた。





「船長!船長ぉぉ!!」



突如、ノックもなく開かれた扉に、船長と呼ばれた男は右手をぴくりと動かすと、「んん…。」と声を漏らし、不機嫌そうに顔を歪めながら体を、ゆっくりと起こした。


しかしそんなことお構いなしに、ピンクのバンダナを頭に巻いた男は、勢いよく開けたドアをそのまま、男に近づいた。



「船長!!こっから北にある村に、海賊共が暴れてるッス!金銀財宝取られるわ、女子供は全員捕まるわで、も~~~~大変っスよ!!」


「ロザート…海賊共って………俺らも海賊だろ。」




首をコキコキと鳴らしながら、気だるそうに船長と呼ばれた男が答えた。ロザートと呼ばれた男は、『ふふん!』と胸を張ると




「我々は海賊は海賊でも海賊ッス!!」



と答えた。



「あー………はいはい。……余計なこと言った俺が馬鹿だった。………ルーファスは?」



重い腰をゆっくりと浮かし、壁にかけてあったプルシアンブルーのロングコートを手に取る。


「舵の所にいるっす!船長の指示が至急欲しいって言ってましたよ!」



「わかった。お前は武器を持ってこい。」



船長は、コートをバサッ!と羽織ると、ロザートに背を向けて歩き出す。


「あいあいさー!」



ロザートは陽気に、その背中に向かって敬礼をした。





船長が船の舵へ向かう。

舵には眼鏡をかけ、若草色の髪を緩く三つ編みにした男性が、操縦していた。


「あぁ、船長。申し訳ありません。お休みのところを。」



「ルーファス。…敵は?」



「ニーシャからの情報によると、相手の海賊は、全員二の腕に、鷹の刺青があるそうです。敵の人数は、現在二ーシャの報告を待っている状態です。」


ルーファスの報告を聞いた船長は、顎に手をやって少し考えると、思い出したかのように顔を上げる。



「鷹の刺青………。」





「心当たりがあるのですか?」



「俺の予想があってるならな。馬鹿みてぇに剣を振るう、礼儀がなってねぇ最近できた海賊がいる。テンプレにありそうな海賊の悪事はほぼやってるとよ。」


「そうでしたか……。僕の勉強不足でした。申し訳ありません。」



「あのインテリ女が俺だけに話してたからな。情報通なお前が知らないのも、無理ねぇよ。」






「船長ぉ!二ーシャのレオナルドが、悪い海賊を見つけたんだよ!褒めて褒めて!」



パタパタと音を立てて駆け寄ってきた少女が、肩に乗ったオウムを見せながら、褒められることを期待した子供のように顔を綻ばせて声を上げた。

ハーフアップをさせた茶髪に赤いリボンが、彼女を更に幼さを感じさせる。




「そうか。よくやった。」




とだけ答えたその船長の反応に、満足そうに笑顔をうかべた二ーシャは、オウムのくちばしの下を指で撫でる。


「えへへ~!船長に褒められたよ!良かったね~!レオナルド~!」



「二ーシャ。人数は、何人かわかったか?」



船長の言葉に、二ーシャはレオナルドとにらめっこするように真正面から見つめると、それに答えるかのようにオウムが大きく翼を広げて、数回鳴き声を上げた。


それに合わせて、二ーシャは「うんうん。」と相槌を打つ。



「ざっと、30人くらいだそうです!それとぉ、そいつら、村の人達に『ヴァルサ海賊団』って名乗ってるらしいですよォ!」


ヴァルサ海賊団。


それを聞いた船長は、目を見開いて二ーシャの方を見たが、直ぐにニヤッ。と口元に笑みを浮かべる。


「ヴァルサ………?はっ。それはそれは………。楽しみだな。30人か……。7、7、7、9で行けるか。」



ブツブツとつぶやく船長を横目で見るルーファス。



「船長?まさか、僕たちで倒すつもりですか?」




「…不可能か?」



ルーファスの言葉に、なにか企んでいるかのように口角をあげる船長。しかし、ルーファスは楽しむかのようにクスクスと笑う。



「まさか。銃の練習にもなりませんよ。そうではなくて、船長は休んでても良かったんですよ?」


「はっ。寝るのに飽きていたところだ。それに、そいつらの言う、ヴァルサ海賊団とか言うやつの力をみてみたい。眠気覚ましにゃ丁度いい。」


敵と闘うことをどこか楽しみであるかのように船長のはなった言葉に、



「人が悪い…。」


と、ルーファスはどこか楽しんでいるかのように呟いた。



「はぁ!はぁ!はぁ!船長!!」




船室の方から、ロザートが激しく息を切らしながら船長達の元へとやってきた。



両手には、抱えきれないほどの武器を持って……。




「倉庫にあった武器!!ありったけ持ってきましたァ!!!」


どさっ!と、様々な種類の武器を置くと、ロザートは肩で激しく息を切らしていた。



「おいおい。誰がこんなに持ってこいっつったよ。使う分だけでいいんだよ。」



「仕方ないじゃないっすか!何人分なんて言われてねぇんすから……。」



船長とロザートのやり取りに、ルーファスが「まぁまぁ。」と間に入って宥めた。



「船長。ロザートがせっかく持ってきてくれたんですから…。ロザート、僕はいくつか武器を選びたいから、ソレはそのまま置いといていいですよ。」



「ありがとう~~!ルーファス~~優しい~~~!」



ルーファスの言葉に、ロザートは片腕で目を隠すと、大袈裟に泣いた振りをしていた。






船が村に近づく。船長は、スラリと剣を半分抜いてみる。刀身に写った自分を見つめた後に、カチリと鞘に収め直す。





「……行くぞ。お前ら。」


「あいあいさー!」


ダガーを両手に持ち、くるくると手の中で回してみせるロザート。



「いつでもご自由に。」



弾をセットして、口元に笑みを浮かべるルーファス。




「エリーナも暴れたくって、うずうずしてるみたい!!」




虎の背中にまたがっている二ーシャ。




「行くぞ!」




船長は、船から身をヒラリと飛び降りると、それに続いて3人も船から飛び降りた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「がははははは!!ここの有り金はこれで全部か?」



この海賊の船長らしき男が満足そうに高らかに笑うと、鼻の下にある髭を指先で撫でてみせる。



「はい!これで全てです!あとはこの女子供共を全員売り飛ばしたら、金がさらに倍になりますよ!」


「上出来!田舎村にしてはいい金儲けだった!」



がははははは!!



と笑う船長に、村長が前に出て声を震わせる。


「本当にヴァルサ………ヴァルサ・フォングランド…なのか?……おまえは………シャルロッタ様に忠誠を誓ったのではなかったのか?こんなこと………シャルロッタ様が知ったら、お嘆きに……!」


バキッ!


村長のその先の言葉は、ヴァルサと呼ばれた男に殴られたことによって遮られた。周りから村長を心配する声や悲鳴が上がる。



「そんなの噂に過ぎねぇよ!忠誠なんぞ誓うわけねぇだろ!俺は海賊だからなぁ!!」



「そうだそうだ!」

「ヴァルサ船長は悪の中の悪だ!!」

「信用したお前らが悪いんだよ!」



ヴァルサと呼ばれた男と、海賊達は下品に笑いながらそれぞれ口にした。


「ヴァルサぁ……!それが、シャルロッタ様に対する態度か!!!許さん!!!」


村長に報告に行った若者が、クワを両手でグッ!と力強く握ると、ダッ!と駆け出してクワを振り上げる。






バァン!!





ところが、ヴァルサという男の発砲によって、若者は後ろに大きく倒れ、左肩から鮮血を流した。

地面に仰向けで倒れると、痛みに顔をゆがめて、左肩を抑えた。





「ぐっ……!」





「おいおい。海賊に立ち向かうなんていい度胸してるなぁ?兄ちゃん。」





ヴァルサと呼ばれた男は、若者に両刃を突きつける。所々くすみがある刀身が、太陽の光を受けてギラリと鈍く光る。




「丁度いい。俺達、ヴァルサ海賊団に刃向かったらどうなるか……見せしめだ……。」



歯を見せて笑ったヴァルサに、子分達は「いいぞー!」「船長!やっちゃってください!」と歓声が上がる。



「まっ!待っとくれ!やめておくれ!その子は!息子は勘弁しておくれ!!」


そう懇願して前に出てきたのは、若者の母親らしき年配の女性だった。女性は、慌てて前に出ようとしたが、周りの男性たちに抑えられて助けに行くことを阻止されてしまった。


「あーあー、可愛そうになぁ?俺は優しいから、後でばーさんも追わせてやるよ!!」



ヴァルサと呼ばれた男は、両刃を大きく振りあげる。



若者が、固く目をつぶって、死を覚悟した………。











ガキィィン…!!






「なっ!?」








勢いよく振り下ろされた瞬間、金属同士が混じり合う音が耳に響いた。

若者がゆっくりと目を開けると、視界の前に広がったのは、十字に混じりあった2本の剣。




ゆっくりと視線を左の方へ移す。

見慣れない男が剣を横に構えて、ヴァルサという男の攻撃から、自分を守ってくれていた。




「…………随分とクソなことをしてくれてるな。」




一睨みして吐き捨てた男は、そのまま剣を上に振り上げる。その勢いに負けたヴァルサという男は、後ろに2、3歩下がるとドサッ!と尻もちをついてしまった。



「な、なんだ!?おまえは!?村のもんじゃねぇな!?」



ヴァルサという男は、指をさして叫んだが、男の姿を上から下までじっくりと見る。


短い銀髪に、プルシアンブルーのロングコート。

その下からは、白いポロシャツに焦げ茶色のズボン。



その容姿を見てヴァルサという男は何かを悟ったかのように、「ははーん。」と声を漏らす。



「わかったぞ……おまえもこの村を狙いに来た海賊って事だな?そうだろ?」



男は質問に一切答えず(と言うよりも無言のまま)ただただ無表情のまま、ヴァルサという男を睨んでいるだけだった。




「ひゃっはははははは!残念でしたァ!ここのもんはこの、ヴァルサ様が全部頂いた!!」




その声と共に、他の海賊たちも「そーだそーだ!」「一昨日来やがれ!ノロマ!」と口々に笑いだした。



「はっ!……ヴァルサ?……おまえが?」



やっと口を開いたかと思うと、男は嘲笑った。

男の態度が気に食わないのか、ヴァルサという男は


「お前!!この俺様をバカにしたな!!?そうだろ!?タダで済むと思ってるのか!?」


と怒鳴り散らした。



「おい黙れ。バカが伝染る。」



男の言葉に、ヴァルサという男は顔を更に真っ赤にして怒りだし、頭から煙でも出てきそうだった。



「コノヤロウ………!後悔しても遅ぇからな……!野郎共!!!コイツを徹底的にひでぇ目に合わせろ!!!」



「おぉー!!」



海賊達は円になり、あっという間に男を囲んだ。

周りから海賊達の下品な笑い声が聞こえてくる。村の人達も、その様子をハラハラと見守っていた。





「聞こえるか。お前ら。17俺は9人やる。」


誰に向かって言ったのか。

男は視線を変えず、冷静に誰かに指示を出した。






「了解!船長!!!」


「二ーシャもりょーかーい!」


「かしこまりました。船長。」



聞こえてきた3つの声。



ピンクのバンダナをしたロザートが、教会の屋根の上に。



ルーファスと二ーシャは、民家の屋根の上に立っていて、彼ら3人で三角形を作るように、海賊達を挟んでいた。



呆然とその様子を見ていた海賊達だったが、ロザートが教会の屋根を飛び降りると、1人に向かってダガーを振り下ろした。

1人が悲鳴を上げて倒れたタイミングで、ヴァルサという男も、ハッ!と我にかえる。


「なにしてやがる!!とっととやっちまえ!!」


怒鳴るような指示。

ほかの海賊たちは、それを合図に一気にそれぞれ襲いかかった。





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