第41話 世界一、なのかもしれない。



 ちょうどクイナがやってきたのでHPとMPをチェックして下級ポーションを買っておく。

 そして。

 

「じゃぁクイナちゃんも来ましたし、次は装備類を見ましょうか」

「はい、お願いします」


 と、こんな風にこの後俺は、防具や武器などを調達していき――。


「よし、準備万端!」


 俺は店の外で仁王立ちになる。

 太ももに巻いている皮素材のマジックバックの中には買った剣と、討伐部位を切り取る為の小刀。

 見た目も冒険者ルックに変わったが、黒の無地服にこげ茶色の皮防具という身軽さ重視の最低限で地味なもの。

 

 金に限りがある中でクイナの身の安全を第一にしたんだから、こればっかりは仕方がない。


「あの金メイルもアルドさんに似合うと思うんですけどねぇー……」


 残念そうに眉尻を下げてそう言ったダンノに、俺は思わず苦笑する。

 

 彼が言っているソレというのは、全てが金色素材で作られた金属鎧の事である。

 試しに試着してみたら思ったよりも重くなくて動きやすかったし、お値段もリーズナブル。

 どうやら修行中の人の作品のせいらしいんだけど、誰が作ったとかあまり気にしない俺からすれば、普通にそちらを選ぶ選択肢というのもあった。


 ――金ピカに輝く、実に目立つ代物でなければ。



 流石の目立ち具合に「これはちょっと……」と断った。


 が、顔が苦笑になっているのは目立つ事だけが理由じゃない。


(あの国で金って言えば、王族の色だったんだよなぁー……)


 そんな風に独り言ちる。



 俺にとっての金はある意味『慣れ親しんだ色』であり、それと同時に俺を嫌っていたあの弟や裏切ったあの父の色でもある。

 もう彼らに何ら未練も含むところも無いのだが、せっかく解放されたのだ。

 それらの色を身に纏うのは、出来れば避けておきたい事だ。


 

 ――という影の理由を、まさか正体を明かしていないダンノ相手に話す訳にもいかなかったんだけど良かった。

 ダンノはこれ以上、食い下がるような事はしなかった。



 「ふぅ」と安堵の息吐いてると、クイナが「アルド!」を声を上げる。


「新しいお洋服なのっ!」


 そう言ってクルリとターンした彼女は、先日買ってやった平民ルックとはまた違う装いになってる。


 白のシンプルなインナーに、動きやすい茶色のズボン。

 何を踏んでも大丈夫なように安全で頑丈な皮ブーツの中に裾をインして、胸を張ってる。

 上に羽織るのは、深紅の生地に白い糸でどこかの民族風な刺繍が為されたコートだ。


 前のソレよりかなり丈夫な生地だし、服にはすべて防御の魔法陣が織り込まれている。

 肌を極力晒さない装いだから、森に入っても安心だ。


(主にクイナの装備を揃えたので金はほぼすっからかんだけど、宿屋には先に5日間分渡してるし、これから稼ぎに行くんだから当面は大丈夫。むしろクイナに超似合ってるからそれで良い!)


 そう思いつつクイナの頭をナデナデすると、くすぐったそうに、しかし嬉しそうに彼女は笑う。

 元々可愛く新しい服にはしゃいでたのに更に嬉しくなったようで、耳をピコピコ尻尾をフリフリと無意識的な感情表現に余念が無い。


 それどころか、一ミリだって死角が無い。

 どうしてくれよう、この可愛さを!


(もしかしたら、この子の可愛さは世界一なんじゃないか……?)


 柄にもなくそんな混乱に苛まれた俺に、ダンノはフッと微笑んだ。


「娘っていうのは際限の無いもので、いつまで見ててもその可愛さは目減りなんてしないんですよ」


 「否、クイナは俺の娘じゃないんですけどね」とか俺が言わなかったのは、彼が何を言いたいのかイマイチ良く分からなかったからである。

 そんな俺に、彼は言う。


「つまり何が言いたいのかっていうとですね――『日が暮れちゃいますよ?』って事です」

「……あ」

「いつまでも娘を愛でてると、日なんてあっという間に暮れちゃうんです」


 そう言った彼も、もしかしたら同じような経験を何度もして、その内の何度かは既に時間を浪費させてしまっているのかも。

 そう思えばもう、苦笑しか出てこない訳で。


「ははっ、すみません行ってきます」

「行ってらっしゃい、気を付けて」


 時刻はちょうどお昼時。

 クイナとちょっと小腹を満たしてから、遂に街の外に出る。 



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