第40話 そりゃぁもう。




 その背中を二人で見送りながら、ダンノさんが教えてくれる。


「この店舗には、商品販売の傍ら飲食スペースもあるんです。そこで甘いお菓子を食べてる間はこちらもゆっくりと買い物する事ができるでしょう」


 なるほど。

 どうやらダンノは俺の買い物に配慮をしてくれたらしい。


「それにしても、こんなに早くまたお会いする事が出来るとは。嬉しい限りです」

「こちらこそ、別れて早々またお世話になって申し訳ない」

「いえいえ、アルドさんなら大歓迎です。それで? 今日はお買い物にいらしたんですか?」

「はい、先ほど冒険者登録をしてきまして」

「おや」

「それで装備を買いたいのですが、武器や防具のお店や他に揃えた方が良いものなんかを教えてもらえると嬉しいなぁと……」


 と言いながら、俺はすべてをダンノに丸投げしようとしている自分に気が付いた。

 だから最後に思わず「すみません」と謝れば、ダンノさんは笑いながら「頼ってくれて嬉しいですよ」と言ってくれる。

 ホントこの人、紳士過ぎる。


「それに、知識を持っている人に頼るというアルドさんの判断は正解だと思いますよ? 我が商会にはバッグやポーションだけじゃなく、低級レベルの者であれば武器や防具も揃っていますし、私もそれなりに目利きが出来るつもりでいます。アルドさん、先ほど登録してきたばかりという事でしたら今はFランクですよね?」

「はい。受けてきたのはとりあえず『薬草採取』と『スライム退治』なんですが」

「なら十分事足りるでしょう」


 そう言って、彼は人の好い笑みを浮かべる。


「私が見繕いましょう」

「えっ、良いんですか?」

「えぇ。商会長と言ったって、ずっと忙しい訳じゃないですし」


 ありがたい申し出だ。

 実際に「ずっと忙しい訳じゃない」という言葉が本当なのかは知らないし、ここで頼ればまた借金並みに借りが倍増していく気がしてならない。

 が。


「じゃぁ、お言葉に甘えさせていただきます」

「分かりました。じゃぁまずは小物を選びましょう。マジックバックやポーションは誰にとっても必須アイテムですからね」


 そう言って、俺は彼にまずはポーション売り場へと案内してもらう。


「まずは状態異常を回復する為のポーションは人数分買っておいた方が良いでしょう」


 そう言って、彼は毒と麻痺、それから睡眠異常に関するポーションを俺の買い物カゴに入れてくれる。


「あとはHPポーションとMPポーションですが、これらは本人の戦い方やHP、MPの総量によって本数やグレードを決めるんです」

「グレード?」

「えぇ、下級・中級・上級・特級。金が有り余ってるからと上級の物を選んでも回復上限は変わりませんからただの損にしかなりませんし、その逆で総量が多いのに幾ら低級ポーションを飲んだところでただの焼け石に水にしかなりません」

「なるほど。でも俺、自分の総量とか良く分からなくて」

「あぁそれなら大丈夫ですよ。先ほど登録した時にもらったプレートはお持ちですよね?」


 そう言いながら、彼はトンッと胸を指す。


 「あぁそうだった」と思い出し、首に下げてたプレートに触って「ステータス」と言ってみる。

 と、ステータス情報がミョンッと現れたので、早速今必要な情報を見てみた。

 

「えーっと、HPが『3,246』、MPが『3,599』? ですね」

「え」

「え?」


 驚いた彼に思わず俺が聞き返すと、すぐに「あぁいえ」と両手を振って苦笑する。


「凄いですね、3,000台の数値なんてよっぽど厳しい訓練をしていないと到達できないのですが……もしかして軍かどこかに所属でもしてたんですか?」

「いえそんな。……あぁでも確かに私の師匠は軍関係の人だったから」

「なるほど、それで」


 俺の言葉に納得した彼は、今度はちょっと可哀想な顔になる。


「……しかしここまでステータスを伸ばすとなると、相当な訓練だったのですね」

「えぇそりゃぁもう」


 正直言って、訓練中に何度「死ぬかも」と思ったかしれない。

 まぁ俺は身分が身分だったから、実際にはちゃんと限界を見極めながら鍛えてくれていたんだと思うけど。

 それでも思い出せばため息が出るくらいには、しんどかった記憶がひどく鮮明に残っている。



 ちょっと遠い目になってしまった俺に、彼はきっと何かを察したんだろう。

 「それならば」言いながら、俺に必要なポーションを選んでくれる。

  

「上級の物を選んでおいた方が良いね、その数値なら。他のに比べると少し値は張りますが、Fランクの依頼程度なら使う事にもならないでしょうし、上級ポーションの消費期限は10年ですからすぐに使い物のならなくなるという事もありません」

「へぇー」


 そんなに持つのか。

 そう思いながらそれらをカゴに入れた時だった。

 足に何かがしがみつく。


「ん?」

「アルドー、お菓子美味しかったー!!」


 見てみるとキツネ耳の少女がヒシッと引っ付いてて、満足そうな顔で俺を見上げて笑っていた。

 「おーそうか、そりゃぁ良かった」と言って頭を撫でつつ、俺はダンノに言っておく。


「クイナの飲み食い代、買い物の会計と一緒で良いですか?」

「構いませんよ。というか、再会のお祝いにサービスにするつもりだったんですが……」

「流石にそれは。お世話になりすぎてあまりに居た堪れないので、今回は支払わせてください」


 あまり良くしてもらい過ぎると今後頼れなくなっちゃいます。

 そう言うと、彼は「それじゃぁ仕方がありませんね」と答えてくれる。


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