第39話 そして嬉しい再会を。



 冒険者ギルドを出てあの串焼き屋で串を買い、食べながら街を歩く。


 機嫌よさげに歩くクイナの首には先ほど作ったカッパー色の金属タグが下げられていて、それがまるで踊るように跳ねるので楽しげ加減も倍増だ。

 


 時刻はまだ午前10時を過ぎた所。

 そして次の目的地はダンリルディー商会。

 そう、ダンノさんの商会だ。



 「場所は、聞けばわかると思いますから」とあの時ダンノさんが言っていたのでそれを信じて聞いてみたら、確かにその通りだった。

 あの串焼き屋で買い物ついでに聞いてみたら、すぐに道順が分かってしまった。

 「大きな店だから、近くに行けば多分分かるぞ!」とサムズアップしてくれたんだけど――。


「あれか?」


 確かに近くに行けば分かった。

 それほどまでに、とってもとっても……。


「おっきいのーっ!」

「あっ、こらクイナ声大きい!」


 掛け声でも書けるかのように何故かクイナが口元に手を添えて叫ぶもんだから、俺は思わずそう言いながら頭にチョップをかましてやった。

 すると「ぁいてーっ!」と言いながら頭を抱え、しかしそれでも機嫌を損ねるような事は無く「メルティー、居る?」と聞いてくる。


 余程会えるのが嬉しいらしい。

 昨日の今日だっていうのに、せっかちなヤツである。


「出かけてなけりゃぁ居る筈だ」

「じゃぁ早く行こうなのっ!」

「あっちょっとおい、引っ張るな!」


 繋いだ手をグイグイと引っ張り突入しようとする彼女に、俺はそう苦言を呈する。


 まさか食べかけの手に持ったまま、売り物がある店内を練り歩く訳にもいかないだろう。

 そう思ってクイナを見れば、不思議そうな顔で見上げてくる。


「……って、あれ? お前串焼きは?」

「もうとっくに食べちゃったのー」

「何……だと?」


 俺は思わず驚愕の顔になる。


 俺なんてまだ3分の1しか食べられてない。

 お腹の減り具合とかじゃなく、熱さに負けてだ。

 それでも口の中を火傷してないだけ昨日よりは成長してる筈なんだけど、たった一日じゃぁどんな努力や工夫をしたってどうにもならない。


(くっ、地味に悔しい……!)


 割と本気で悔しがってると、変な顔をしたクイナに再度「早く行こうよ!」と手を引っ張られた。


「俺はまだ食べれてないから! 食べかけ持って入れないから!」

「じゃぁ早く食べてなの!」

「急かさないで、火傷するから!」

「はーやーくぅーっ!」


 急かされハフハフと言いながら食べ終わり、俺とクイナは店に入る。

 因みにだけど、また火傷した。




 店内に入り、俺は思わず「おぉー」と声を上げてしまった。


 もちろん俺は元王族だ、過去に招かれた侯爵家や公爵家の家は比べ物にならないくらい大きいし、城なんて言うまでもない。

 が、それでも街中の建物としてはかなり大規模、敷地面積的には冒険者ギルドともそう変わらない。


「ダンノさんって、すごい商人なんだなぁー」


 そう俺が呟いたところで、クイナが俺と繋いでいた手を放して駆けだす。


「メルティーっ!!」


 止める暇も無く走り出した彼女は俺の静止を全く聞かない。

 

 きっとクイナは止まってはくれない。

 彼女の視線の先に居る少女の所にたどり着くまでは。



 その少女が、クイナの声に振り返る。

 そしてパァッと顔を華やがせて「クイナちゃんっ!」と叫び、突進してきたクイナを受け止めた。


「会えたのーっ!」

「ビックリした……! 今日はどうしたの?」

「お買い物に来たの!」


 何人もお客さんがいる中で、二人はキャッキャと再会を喜ぶ。

 その光景はとても微笑ましいものだったが。


「メルティー、お客様の前ではしゃいだ声を上げてはいけないと――おや」


 店の奥から騒ぎを聞きつけたダンディーな人影がメルティーを制し、そして俺たちに気が付いた。


「お仕事の邪魔をしたのはクイナなので、彼女を怒らないでやってください。ダンノさん」

「アルドさん?」


 俺を見て、ダンノは少し驚いたような顔をした。

 しかしすぐに状況を察したのだろう、「そう言われてしまっては仕方がありませんね」と苦笑した後、メルティーの前へと向かいしゃがんで彼女と目の高さを合わせてから言う。


「今回は大目に見るけど、売り場ではちゃんと節度を持たないと」

「ごめんなさい、お父さん」


 素直に謝ったメルティーに、ダンノは「よろしい」と微笑んだ。


「せっかくの再会だ。カフェスペースに二人で行って、クイナちゃんとケーキでも食べてきなさい」

「いいの?!」

「あぁ、一つずつね」

「分かった! 行こうクイナちゃん!」

「うんなの!」


 そう言って、クイナとメルティーは手に手を取って店の奥へと歩いて行く。


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