第38話 痒い所に手が届く。

 


 クイナの機嫌を直す為に、俺は『とっておき』を引き合いに出す。


「その後は買い物だな、装備品とか買わないと冒険には行けないし。行先は――そうだなぁ。ダンノさんの所とか」 


 そう言った瞬間すごい強さで服が下に引っ張られ、俺の体がガクッと高度を少し落とす。


「メルティーのところ?!」

「そうだな、居るかもしれない」


 出かけてなければ。

 そう付け足したが、クイナは最早聞いてない。

 両手で口元をパシッと抑え、フフフッフフフッと笑いだす。


 とりあえず、完全に機嫌が直ったようなので一安心。

 もしメルティーが居なかったら一層いじける事にあるかもしれないが、その時はその時、また考えよう。

 

 少しリスクヘッジを投げた所で、どうやら手続きが終わったらしい。


「お待たせしました。これがギルドに所属している証のプレートです。プレートの再発行は可能ですが時間とお金がかかるので、無くさないようにご注意ください」

「分かりました」

「では次に、プレートに向かって『ステータス』と唱えてください」


 そう言われ、プレートを手に取って「『ステータス』?」と唱えてみる。

 と。


「ぅわっ!」


 プレートから何かが飛び出してきた。

 まさかそんな事になるとは思わなかったので、ちょっと大げさに仰け反ってしまう。

 しかしすぐに我に返って、目の前に居るお姉さんに見られた恥ずかしさを紛らわせるために、コホンと一つ咳払いしてから今度はマジマジと現れたそれを見る。


 半透明のソレは、触ってみようとしたところ簡単に手をすり抜けた。

 どうやら実体は無いらしい。



 不思議だなぁと思っていると、彼女が説明してくれる。


「そこに出ている内容は、貴方のステータス情報です。先程登録した内容の閲覧も可能ですが、その他に現在のHPとMP値、依頼達成した履歴なども見る事が出来るようになっています」

「これってもしかして、第三者に覗かれる事も?」

「はい、あります。ですからステータスを確認する時は周辺に気を付けたり、そもそもギルドへの登録内容については目隠しをしておく方もいらっしゃいますね」

「目隠し?」

「はい。ギルドで手続きすればプレートからの閲覧は出来なくなります」


 なるほど。

 ならば不用意に開かない方が良いな。

 そう思いつつ、「目隠しする内容についてもちょっと考えないといけないか」とも考える。


「ステータス画面は、本人のプレートへの接触と肉声による『ステータス』という合言葉が必要になります」

「何か越しだと接触にならないとか?」

「布一枚くらいでしたら、問題なく確認出来ると思いますよ?」


 そうか。

 なら手袋とかしてても普通に使えるか。


「登録したばかりなので、今はお二人ともFランクです。依頼を熟す度にランクが上がり受けられる依頼の幅が増えていきます。今日はご依頼、受けていかれますか?」

「そうですね……良さそうなのを見繕ってくれますか?」

「かしこまりました」


 そう言うと、彼女は一度席を外し何枚かの依頼書を持って戻ってきた。


「受けられる依頼は一つ上のランクのものまでなので、EかFランク相当の依頼になります。町から出ない依頼ならこちらかこちら、出る依頼ならこちらかこちら……なんていかがでしょう?」


 そう言って、計4枚の紙を見せられる。



 町を出ない仕事の方は、『とある商会内の掃除』と『病院での衣類の洗濯などの雑用』。

 出る方は、『薬草採取』と『スライム退治』。

 こっちはすぐ近くの森でのものだ。


「この森は、危険な獣や魔物が出たりしますか?」

「いえ、基本的にはこちらから手を出さないと襲ってこないものばかりです。森の入り口での採集活動という事でしたら、お子さん連れでも大丈夫だと思いますよ」


 なるほど、それならクイナも連れていける。


 最悪クイナが襲われても、スライムレベルなら攻撃力はそれほどじゃない。

 俺の魔法で事前に防御策を取っておけば問題ないだろう。


「しかし、襲ってこないのならば何故……?」


 何故スライム討伐が必要なのか。

 そう聞くと、彼女は「あぁそれは」と教えてくれる。


「ここは薬草が豊富な場所なのですが、スライムはそれらを根こそぎ食べちゃいますから、こうして『数を減す依頼』が国から定期的に発注されるんです」

「へぇ。因みに期限などは?」

「4枚とも、今回は無期限のものにしておきました。期限付きのものの方が報酬額は割高ですがそれでもF、Eランクのものならそれ程大きくは変わりませんし、期限付きは超過すると罰金などのペナルティーがありますからね。クイナちゃんを同伴させる最初のお仕事という事ならば猶更、仕事の要領を得るまでは期限付きは避けた方が賢明でしょう」

「そうですね、ありがとうございます」


 話しながら、「彼女はデキる人だなぁ」と思った。


 別の種類の4つの仕事をこの短期間で選んできた。

 しかもバランスの良い仕事内容のチョイスに、俺たちに対して優しいチョイス。

 なんとも『かゆいところに手が届く』仕事ぶりだ。


 俺は多分運がいい。

 

「じゃぁこの町外の2つ、良いですか?」

「分かりました。じゃぁ受理しちゃいますね。でも行く前に……装備は揃えた方が良いと思いますよ?」


 周りを見ながらコッソリと、彼女は俺にそう助言してくれた。

 彼女はおそらく、さっきからずっと俺とクイナを見ている一部の冒険者たちの良くない視線を気にしてくれているんだろう。


「分かっていますよ。でもありがとう」


 俺はそう答えながら、彼女が出してくれた『薬草採取』と『スライム討伐』のクエストを受け取ったのだった。



 因みにその後、ものの見事に先輩冒険者に絡まれた。

 しかも、二組も。


 一組目の言い分は「その珍しいキツネ、俺達が引き取ってやるよ」で、二組目の言い分は「よくもミランさんと楽しそうに……!」だった。

 後者のは、多分あの受付のお姉さんが原因だろう。

 確かに綺麗な人ではあったし優しい人でもあったし、誰かを差別するような態度にも見えなかったから、荒くれモノに人気なのも頷ける。


 まぁ結果は言うまでもない。

 どちらとも、危害を加えてきたところを軽く伸して放置してきた。


 もし次もやってきたら、その時は流石に容赦できない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る