第32話 クイナが貰ったお守り言葉 ~クイナ視点~



――クイナ視点。



 ご飯を食べて、お腹が幸せでいっぱいになって。

 真っ白なベッドにピョンッと頭から飛び込むと、柔らかな布団に包まれてとっても幸せ気分になったの。


「クイナー? 眠いんならちゃんと布団に包まっとけよー」

「んー……」


 アルドがなんか「風邪引くぞ」とか言ってる。

 しょうがないから言う通りにしておく事にするの。

 

 うーん、あったかいの。

 その上アルドが『ご褒美ナデナデ』なんかするから、もうこの睡眠の誘惑には抗えないのー……。



 このナデナデはとってもクイナを安心させるの。


 だってアルドの手のひらは、いつも教えてくれるから。

 クイナに『大丈夫だよ』って。




 ――大丈夫。

 アルドはいつも、クイナにそう言ってくれるの。


 初めて出会った時も、そうだった。


 お母さんがお星さまになっちゃってから2回寝た次の日の事だったの。

 川の水を飲んで、木の実を食べて。

 ちゃんとお母さんが言ってた通り、ニョッキ山を目指して歩いて。


 寂しかったの。

 怖かったの。

 それでもお母さんは空の上から見てるって言ってたし、「集落には特に近づいちゃいけない。鍋にして食べられちゃうから」とも言っていたの。

 

 だからその言いつけを守って、お母さんの言った通り『ニョッキ山』を目指して頑張ったの。

 


 だけど怖い目をした大きなワンちゃんに追いかけられて、逃げて、逃げて、逃げて。

 それでもずっと追いかけてきて。


 もうダメだって思ったの。

 「お母さん、約束を守れない悪い子でごめんなさい」って、そう思ったの。



 だけどね?


「――もう、大丈夫」


 すぐ近くで大きな音がしたすぐ後に、そんな声が降ってきたの。

 その声がとても優しくて、ふわりとしてて温かくて。

 ギュッと閉じてた目を開けてみたら、そこには大きな背中があって。

 

「俺が助ける、だからそこでじっとしてろ」 


 その声を、クイナは何でか「信用できる」と思ったの。

 だから「一緒に行くか?」と言われて伸ばされた手を、ちゃんと握り返したの。


 クイナの前にしゃがんで「一緒に行けば、多分今より怖くも心細くも無くなる。なんてったって、俺は君より強いしね」って言ったアルドの『大丈夫』を信じる事にしたの。

 



 アルドは色んな事を知ってて、何でも持ってて、ご飯もくれる。

 一緒に居ると、心がホワッなれる人。


 人間だけどクイナを食べちゃったりしないし、とってもとっても『いい感じ』なの。


 

 アルドが居たから、人間の子と話すのも安心だったの。

 だからメルティーと仲良くなれたの。

 メルティーにクイナが獣人だってバレちゃった時も、アルドが「大丈夫」って言ってくれたからこそ大丈夫だったの。


 メルティーとお別れした時は、とっても悲しかったの。

 でもアルドは「またすぐに会える」って、「大丈夫」だって言ってくれたから、きっと本当にまた会えるの!



 お母さんがお星さまになっちゃう前、『お守り言葉』を教えてくれたの。

 お守り言葉は、クイナを守ってくれる言葉なんだって。

 お母さんはお父さんから「愛してる」を貰ったから、お母さんもクイナに「愛してる」をあげるって、そう言ってたの。

 

 クイナは知ってるの。

 「愛してる」は「大好き」っていう意味なんだって。

 だからクイナはあの森の中、一人でも頑張れたの。


 

 でもね? お母さん。

 クイナが持ってるお守り言葉は、もう一つだけじゃないの。

 

 ――大丈夫。


 この言葉は、何度もクイナを守ってくれたの。

 だからこれはアルドがくれたお守り言葉に違いないの!




 アルドはね、多分完璧なんかじゃないの。

 今日だって、串焼きでお口火傷してたみたいだし。


 だけどそれでも別に良いの。

 アルドがダメダメな時には別に、クイナが守ってあげればいいの。


 そうやって一緒に居れば、きっといつでもなの。

 は最強なの!

 

「……ったく、どうしたもんかなぁーコイツ」


 どこからかそんな声が聞こえてくるの。

 

「最初は俺に『調停者の祝福』があるからなんだと思ってたけど、もしかしてコイツには魅了系の恩恵でもあるのか? 誰に対しても発動させるコイツの無警戒さ、どうにも危なっかしいんだよなぁー……」


 何言ってるのか、良く分からないの。

 でもクイナが皆と仲良くできるのは、アルドが近くに居るからなの。


 アルドが居るから笑えるし、アルドが居るからぐっすり眠れるの。



 そんな言葉は声にならない。


 でも良いの。

 そんなのは、クイナだけが知ってればいいと思うから。


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