第21話 クイナにだってプライドはある
ギュッと握られた手は、心細そうで縋るようで。
心細いのだろうという事は、手に取る様に理解できた。
だから「大丈夫」と、その手をちゃんと握り返す。
するとメルティーは、意を決したようにぐっと少し顎を引いた。
「あの! クイナちゃんはワンちゃんなの……?!」
「え、そこ?」
彼女の言葉に、思わずそう呟いたのは俺だ。
え、気になるのは種類の方なの?
何とも抜けた問いである。
が、その瞳がクイナに対して肯定的どころか爛々と興味に輝いているものだから、こちらもホッと胸を撫で下ろす。
クイナも緊張から脱したのだろう。
相変わらず手は繋いだままだったけど、それでもチョイっと身を乗り出して。
「クイナはワンちゃんじゃなくて、キツネなの!」
「キツネさんっ?! 金色の子は初めて会った!」
「確かに珍しいですね」
「え、そうなんですか?」
獣人が多く集まるこの国でも?
言外にそう尋ねれば、ダンノさんはすぐに頷く。
「黄色ならばともかくとして、この輝く様な金色の毛並み、しかもキツネ族とならば、おそらく神の眷属と謳われる『
「そうなんですか」
「まぁもちろん隔世遺伝の可能性もありますけどね。どちらにしろ輝弧は獣人の中でも絶滅危惧指定Bですから珍しい事には変わりないですよ」
「『絶滅危惧指定B』……確かノーラリアでの種族人口に応じたグループ分け、でしたよね?」
そんな俺の言葉に彼は「あくまでも学術分類ですから、別に指定されたからどうという訳ではないのですが」と教えてくれた。
軽く微笑んでくれているのは「それほど気にすることでもない」と暗に言ってくれているんだろう。
そう。
この指定がされているからといって、国から何か補助が出るわけではない。
ただどうしても珍しい種族というのは、裏の人間に目を付けられやすい。
それなりに自衛ができるようにするべき、という一つの指標には、多分なる。
「じゃぁやっぱり、もし種族を聞かれたら『犬だ』と答えた方が良いんですかね……?」
「身の安全を守る手段としては一案ですね。でも……」
と、ダンノの視線が俺の手先へと滑ったところで、その手をグイっと引っ張られた。
「クイナはキツネなのっ!! ワンちゃんじゃないの!」
ムンッと怒り顔の彼女に、俺は「あぁ」と思い出す。
そういえば、出会った時からずっと彼女は自分の種族に固執していた。
という事はもしかして、犬族と間違われる事はクイナにとってキツネ族としてのプライドに障る事なのかもしれない。
彼女の年齢を考えれば、ほんの少し「いっちょ前にまぁ……」と思わないでもないけれど、自らに誇りを持てる事自体はとても大切な事だとも思う。
第一ここまでのプライドならば、俺が幾ら隠したところで彼女が端からすべて訂正してしまうだろう。
(これは多分無理だろうなぁー……)
ちょっと想像したただけで、思わず遠い目になってしまう。
だから嘘をつくのは諦めて、代わりにこんな約束をする事にする。
「じゃぁとりあえず、『聞かれたら答えていい』っていう事にしよう。その代わり自分から『キツネの獣人だ』って言いふらす事は無し。じゃないと、もしかしたら鍋にされて食べられちゃうかもしれないからな」
「えっ」
俺の忠告に、クイナは途端に不安顔だ。
それを「約束を守れば大丈夫だよ」と言い含めて約束させる。
一緒にいればもちろん俺が守るけど、クイナが珍しい種族だと知られたら、1人を狙われる確率も高くなる。
やっぱりそれなりの警戒は必要だろう。
少なくとも、彼女自身がある程度の自衛が出来るようになるまでは。
そんな風にあれこれと話しながら、俺達は首都行きの馬車を探しつつ歩く。
並んで歩く俺とダンノさんのすぐ前では、メルティーと耳も尻尾も全開のクイナが2人でキャッキャと笑い合っていた。
何となくだけど、俺は何だか「この光景は今後も長いこと見る事が出来るものなんじゃないかなぁ」と密かに思ったのだった。
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