第13話 緊急ミッションの報酬:モッフモフ!



 バッグの中から出したシャンプーを出して頭をゴシゴシ。

 モクモクと泡が立つ中、さりげなくクイナにこんな質問してみる。


「なぁクイナ、好きな色は?」

「んー、グイの実の色」

「赤か。じゃぁズボン好きとかスカート嫌いとかは?」

「んーん。でも尻尾がキツキツだとやーなの!」

「ふーん、なるほど。よしじゃぁシャンプー流すから目と口ちゃんと閉じとけー?」


 そう言って、頭にまたバシャァッと水を掛けて泡を落とす。

 よし、これで大分綺麗に――。


 ブルブルブルブル。


「……」

「……アルド?」


 俺が思わず固まると、振り向いたクイナがキョトン顔で首を傾げた。

 どうやらクイナは気付いてないらしい。

 クイナによって高速散布した水のせいで、俺がずぶ濡れになった事を。


「あ、や、良い良い。ちょっとビックリしただけだから」


 そういうと、やっと時間差で気づいた様だ。


「あーっ、アルドびっちょんこー!」

「こんなに至近距離だからなぁー」


 楽しそうに笑う彼女に、俺もハハハッと笑って返す。


 楽しそうで何よりだ。

 けど、俺はクイナが言った通りびっちょんこ。

 ついでに部屋もびっちょんこだ。

 

「あー、まぁいいや。俺ちょっと出かけてくるから、クイナはちゃんと服を脱いで体を洗っておけよ? 出来るか?」

「出来るのー!」

「じゃぁ頑張って。服は脱いだら湯船の中に入れっぱなしで良いからな?」


 服は後で洗うから、そのまま置いておけばいい。

 そう言ってから、俺は部屋を後にする。


 去り際に、飛んだ水はひっそりと魔法で浮かせて集めて燃やしておいた。



 

 それから15分くらい時間を置いて、俺は再び部屋へと戻る。


 コンコンコンッ。


「クイナー? 体洗えたか?」

「洗えたのー!」

「入ってもいい?」

「いいよ?」


 何でそんな事を聞くの?

 そう言いたげなその声に、俺は少し苦笑する。


 一応俺は男だし、気を使った方が良いかなと配慮したつもりなのだが、どうやらその手の羞恥心は彼女にはまだ無いらしい。

 まぁそれでも、一応な?


「今は、さっきの桶の中?」

「そうだよ?」

「じゃぁそのまま立ち上がって? ……立ち上がった?」

「うんなの」

「じゃぁそのまま、目を瞑って口も閉じてー? 3、2、1……」


 カウントダウンのすぐ後に、あらかじめマークしておいた場所で魔法を幾つか発動させた。


 発動魔法は土、風、火、そして水。

 土魔法で網目状の鉄の板を作り、風で浮かせて火で板を温め、そしてその上から水を落とす。

 すると温かい水が彼女を、頭の上から流すという戦法だ。


 実はさっき思いついたやつで、やるのも初めてなんだけど、さてどうだろう……?


「んなっ! 突然頭の上から温かい水がー!」


 ブルブルブルブルッ


 ……どうやら手段そのものには問題は無いようだ。

 が、またブルブルしちゃったか。

 うん、仕方がない。

 後でまた部屋全体に乾燥魔法掛けとこう。


「すぐ近くにタオルがあるからそれでまず体を拭いて風呂から上がって、そしたらこれを着るんだぞ? ここに置いとくから」

「分かったのー」


 ちょっとだけドアを開けて、出来た隙間から彼女の着替えを差し入れて、待つ事1、2分。

 ガチャリとドアが開いたので見れば、クイナが「出来たの!」と言ってきた。

 そしてドアが大きく開く。


 そこには頭が濡れたお風呂上がりのクイナが居た。

 かなり上機嫌である。

 理由は一つしかないだろう。

 

「グイの実の色なのっ!」

「うん似合ってるぞー」


 そう言ったクイナのズボンは紺色、インナーは白。

 しかし靴と上着とは、両方とも赤色だ。

 それが嬉しいんだろう。


「クイナの好きな色!」

「あぁ、偶然ダナァー本当ニ」


 フフンッと胸を張るクイナにそう答えながら、とりあえず簡単に部屋をカラッとさせてベッドに座る。


「クイナー、来い来い」

「んー?」


 トタトタと寄ってきたクイナの頭をまず風魔法で乾かして、後ろを向かせて尻尾も乾かす。


 それでやっと、モフモフふわふわなクイナの完成だ。


(おぉー、尻尾……ふわふわ尻尾……)


 目の前に出来上がった立派な尻尾は、黄金色のふわふわ尻尾。

 今までで一番手触りが良さそうなその仕上がりに、ちょっと感動してしまう。


 が、ひとりでに伸びた手は、モフモフする直前で止まった。


 ちょっと待て、獣人的にコレって触って大丈夫なやつ?

 もし万が一嫌がられたら、俺ちょっと傷つくんだけど。

 

 そう思い、一度はその手を引っ込めた。

 が。


「……ん? クイナさん?」

「ここが一番落ち着くの」

「そ、そうなの?」

「そーなの」

「うーん、そっかぁー……」


 クイナが腰を下ろした場所は、なんと俺の膝の上だった。


 まぁそれ自体は別に良い。

 そんなに重くもなかったから。

 問題は、目の前でゆらゆら揺れるモフモフの誘惑だ。


(ち、ちょっとだけなら……)


 遂にその誘惑に負け、俺はそれに手を伸ばす。


 結果を言えば、幸いにも嫌がられるようや事は無かった。

 そしてその触り心地は、神尻尾だった……とだけ言っておこう。


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