第55話 クイナの中のポテンシャル
――――
<祝福による恩恵取得の結果は以下の通り>
●豊穣
●忍耐
●直感力
――――
なんとこの歳で3つ持ちだ。
俺も元々2つ持ちだけど、当初は複数持ちというだけで珍しがられていたものだ。
まぁ俺の場合は「2つもあるのにどちらも王族にふさわしくない」と一部の貴族達からは更に嘲笑う材料にもされていたんだけど、クイナはそんな俺よりスゴい。
「何だったのー?」
「ん? あぁえーっと、『豊穣』と『忍耐』、それと『直感力』だな」
「『ほうじょう』? 『にんたい』? 『ちょっかんりょく』……?」
俺の答えに、彼女はコテンと首を傾げる。
「簡単な所からいうと、『忍耐』っていうのは平民には割とメジャーな恩恵だな。我慢強いっていう事で、うーん……例えばだけど、こないだのスライムの件、クイナは頑張って魔力制御を覚えただろ?」
「うん、頑張った!」
「ああいう風に、長い間頑張る事が出来る力がありますよっていう事だ」
「おぉ!」
おそらく納得したのだろう。
クイナは自分で「クイナ、凄い!」と自賛している。
「次に『直感力』。これはアレだな。『〇〇な気がする!』みたいなのが良く当たるっていう事だ」
そう教えてやると、クイナは耳と尻尾をピピンッとさせて「それは分かるの!」と言ってきた。
「え、何が?」
「アルドにクイナ、ビビッと来たもん!」
「俺に? ビビッと?」
意味が良く分からなくて首を傾げれば、彼女はハッとして口を両手でパシッと塞いだ。
「ひ、秘密なのー……」
「えー……」
何ソレとっても気になるんだけど。
そう思うが、クイナはモジモジするばっかりで口を割ってくれそうにない。
まぁ悪い事じゃなさそうなので、とりあえずは横において残りに一つに取り掛かる。
「えーっとそれで、問題は『豊穣』なんだけど……」
これについては良く分からない。
少なくとも俺は知らない恩恵である。
「後で辞典で確認するか」と思っていると、おそらく神父が俺の内心に気付いたのだろう。
小さく「あぁ」と声を上げた。
「知らなくても当然です。『豊穣』は、辞書にこそ載っていますけど珍しいスキルですからね。簡単に言えば、『良く採れる』ようになるスキルです」
「良く採れる?」
「例えば元々自生している採集物を見つけるのが上手かったり」
なるほど。
だけどソレはメジャー恩恵の『採集』と同じような効果だ。
「この恩恵の特徴は、その上に「育てたものが良く育つ」という効果が上乗せされる事ですね。沢山実が出来るとか、大きな実が出来るとか」
「へぇー、まるで『緑の手』みたいですね」
その話を聞いて俺が思い出したのは、幼い時にシンが貸してくれた童話である。
『緑の手』とは、不遇な平民が大成する物語だ。
何も持たなかった少年がある日一つの木の種を貰い一本の木を手塩にかけて育てた所、ある日の夜に夢の中でその木の妖精と名乗る人が現れた。
夢の中で「いつもお世話をしてくれてありがとう」とお礼を言われた次の日以降その木に大きくて美味しい実が沢山実るようになり、それを困窮していた周りのみんなに分け与えてみんなでお腹を満たした後、余った実を使ってみんなで商いを開始して大金持ちになる。
たしかそういう話だった。
「よくご存じですね。実はその童話にはモデルが居たという話があるのです。もしかしたらその人が、『豊穣』の恩恵持ちだったのかもしれませんね」
そう言われ、何だか物語の裏話を知ったような気分になって妙にワクワクしてしまった。
その一方で感心もしている。
『豊穣』の有用さにもそうだが、そもそも神父がそれを諳んじた事にもだ。
「もしかして神父様、恩恵の内容を全部暗記してるんですか?」
「ここで聞かれる度に私も疑問に思って調べたりして、そうしている内に気が付けば、という感じですね」
「あぁなるほど」
それでも分からなかった事を後で調べる辺り、彼は知識欲が深いのだろう。
確かエルフの種族的特性に、そういったものがあったかもしれない。
が、ここで「あれ?」と首を傾げる。
ならば何故、先程彼は辞書の話なんてしたんだろう。
今の感じじゃぁ知識を秘匿したいという感じでもなかったけど。
そう思えば、彼は思わずと言った感じで苦笑する。
「たとえ立ち合い神官には守秘義務があるとは言っても、恩恵は個人情報ですからね。中には自分が持っている恩恵を、他人に知られたくない方も居るのですよ」
「――あぁ」
そうだった、一般的に恩恵とはそういう類のものだった。
特に珍しい恩恵持ちは周りから搾取されたりしやすいからな。
俺は王太子だったから立場上、国民に自分の恩恵を明かしていた。
これは自身の恩恵を国民の為に使っている・役に立てているとアピールするための措置で、これが意外と求心力になるらしい。
そういう背景もあって、俺の中では恩恵はみんなに知られているのが普通の事だったから……。
「用心深い方もいらっしゃいますからね」
そう言った彼は、「そういう危機意識の著しく高い人は自分で辞書で調べるのだ」と教えてくれた。
俺としてはどうだろう。
今の所この神父さんには俺達への配慮と真摯さを感じるし、仕事意識が高そうにも見える。
今まで培ってきた王太子としての洞察力を総動員した結果として、彼は信用できるんじゃないかと思うけど。
「なぁ、クイナ」
「んー?」
耳元に口を寄せコショコショと話をすると、クイナは一もニもなく頷いた。
「大丈夫なの!」
「そ、良かった」
俺がクイナに聞いたのは、「この神父さん、約束破ったりするように見える?」というものだ。
もしかしたら「こんな小さな子に何を聞いてるんだ」と思うかもしれないが、彼女が得ている恩恵『直感力』に頼った形だ。
嫌な感じがしたらおそらく、何かしらを感じるだろう。
俺とクイナ、2人の意見をすり合わせ、俺は彼に頼る事にする。
「じゃぁあの、俺が貰った恩恵についてもお聞きしても?」
「えぇもちろん構いませんよ?」
俺の問いに快く応じてくれたので、俺はその後少し彼と話をしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます