第54話 俺の恩恵、こっそり増殖。
自分とクイナ2人分のお布施を支払い祝福の間に入れてもらって神父の到着を待っていると、やがて扉がガチャリと開いた。
反射的にそちらを見て、ちょっと驚く。
そこには純白の神父服に身を包んだ、一人のエルフの姿があった。
「きれー、なの……」
クイナが思わずと言った感じでそう言葉を漏らした気持ちは良く分かる。
男性エルフだ。
だけど種族的な中世的容姿がそう思わせるのか、それとも性格が滲み出ての者なのか。
優し気で美しく、それでいて何物をも寄せ付けないくらいに厳かで神々しい。
そんな感じだ。
そんな彼が、低く落ち着いた声で言う。
「それではそこで両膝を付き、祈ってください」
俺が言われた通りの体勢になると、隣のクイナもすぐに俺の真似をする。
そんな彼女を確認してきちんと出来てるのを見てから、俺はゆっくりと目を瞑った。
膝をついて両手を胸の前で組み、俺は天に祈りを捧げる。
祈りというのは邪念を取り払い、ただ一心に神を思うという事だ……と、前に習った事がある。
子供の頃はその意味も良く分からなくて何となく祈るふりをしてたが、じゃぁソレが理解できる大人になった今その通りの事が出来るのかと言われると、全くそんな事は無い。
目を瞑ると、むしろ何故か「無心になどなれなる筈も無い」という気持ちにさせられたのだ。
多分それは、そう思うくらいには最近色んな事があったからなのだと思う。
最初に頭の中に浮かんできたのは、あの国に置いてきたシンと俺が今何の不自由を感じない様に心身共に鍛え上げてくれた師のレングラム。
その他にも道中で知り合った商人のダンノとメルティー親子、串焼き屋のおじさんや『天使のゆりかご』のマリアとズイード。
そして何より、隣のクイナ。
沢山のいい出会いがあった。
まだ『やりたかった事』も、3つしか叶えられてない。
けど、逆に言えば僅か11日でもう4つも叶っているという事で、王城に居た時には一生叶わないと思っていた夢が4つも叶ったという事は、少なくとも俺にとっては奇跡に近い事である。
そのお陰か、あれ以降は毎日が実に短くて濃厚に思えてならない。
ここまで大して嫌な思いもせずにこれたのは、きっと運が良かったからだ。
だから今に、最大限の感謝を捧げたい。
そう思いながら、俺は祈った。
瞑っていても瞼越しに分かるくらいの光が俺とクイナに降り注ぐ。
それが神からの祝福の証だった。
「――目を開けて結構ですよ」
そう言われ、俺はゆっくりと瞼を上げる。
隣を見れば同じように目を開けたクイナが何故か、一仕事終えたかのようなため息を吐いていた。
思わず笑ってしまったんだけど、キョトンとした顔で見てくるんだから更に微笑ま可笑しい。
と。
「ロールをご確認ください」
一枚の紙がそれぞれ俺とクイナの前へと差し出される。
白く発光するその紙は、神聖魔法で清められた特殊なもの。
施された祝福の光に反応し、受け取り手の魔力を吸ってスキルを映し出す代物だ……という説明を、一度目の儀式のときに聞いた気がする。
受け取った紙を見ると、ちょうど光る文字が浮き出初めている所だった。
読んでみると、前より二つも恩恵が増えている。
――――
<祝福による恩恵取得>
●魔剣士
●調停者
●破壊者
●幸運
――――
……否、よく見たら『剣士』が『魔剣士』に変化している。
確かに恩恵を受けた後、レングラムから魔物を倒すためのスキルとして魔法と剣の併用術を伝授されてる。
元々『魔剣士』という恩恵はメジャーなのでどんな効果があるのかも何となく分かるし、変化した理由も分かるので感想は「へー」という感じだった。
が、恩恵が二つも新たに増えているのには驚いた。
「あのー……」
「何でしょう?」
「二度目以降の祝福で前回より複数恩恵が増えるのって、結構ザラにある事ですかね……?」
気付けばそう聞いていた。
すると神父は柔和な顔で「うーん」と少し言葉を濁す。
「個人差がある事なので一概には言えませんが、祝福を受けた回数に関わらず、以前の祝福以降にまったく別の道を歩んだ方や厳しい試練を越えた方には、例えば複数の恩恵が増える事が多いようです。まぁ勿論そんな経験をされる方自体、そう多くはありませんが」
そう言ってちょっと困ったように笑った神父に対し、俺も思わず苦笑しながら「まぁそうですよね」と言葉を返す。
先程クイナに言った通り、恩恵は『行い』によって増える事がある。
が、だからと言ってそう簡単に増えるという訳じゃ無い。
「因みに恩恵が与える効果って、どうすれば分かりますかね?」
「更なる鑑定でも知る事は可能ですが、それだと別途お布施が必要になってしまいます。過去に出た事のある恩恵に関しては教会内に安置された『恩恵辞典』に記載がありますので、一度そちらを見てみると良いですよ?」
その受け答えに、俺は「なるほど」と感心した。
今まで俺は「教会というのは何かにつけて金をとる守銭奴だ」というイメージを持っていたが、少なくとも目の前の彼はそうじゃないらしい。
でなければ、こんな良心的な提案はしてくれない事だろう。
よし、あとで一度読んでみるか。
そう思っていると彼が「辞典は持ち出し不可ですが、断りさえしていただければ、いつでも何度でも見ていただく事は可能です」と教えてくれた。
お礼を言えば、慈愛に満ちたような笑顔が向けられて何だかとても眩しく思える。
と、その時だ。
クイナにクイッと上着の裾を引っぱられ、俺はそちらに目を向ける。
すると困り顔のクイナが俺に紙を渡しながら催促してきた。
「アルドー、何書いてるか分からないのー……」
「あぁそうか、まだ文字の読み方教えてなかったな。えーっとどれどれ……」
言いながら受け取って、クイナの恩恵に目を通してみる。
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