第五節:教会でする大事な話

第53話 神様から授かる能力(ちから)





 『クイナ、夢のスライム祭り』から一夜明け、俺たちは今日も冒険者ギルドに――は行ってない。


 何事も休みというものは必要だ。

 そうでなくともクイナはまだ幼いし、最近は魔力制御の練習をずっと頑張ってたし、『スライムを素手で捕まえる』という目標も達成したし。

 この辺で一端小休止というものが必要だと判断した訳である。


 まぁ実は、それ以外にも「必要に迫られて」という裏の理由があったりはするのだが。



「わーっ! おっきいの!」


 クイナは目の前に聳え立つ十字架を掲げた建物を見上げてそう言った。


 教会。

 そこは神様のお膝元。

 しかも首都の教会だけあって、純白なその建物はかなり立派な大きさだ。


 しかし、中に入ればもっと凄い。

 

 天井や床、壁までも四方全てがほぼ純白で、その間に差し入れられる儀式具の金とカラフルなステンドグラスの色がまた透き通っていて美しい。

 きっと誰もに幻想的で神聖な場所だと思わせる力があるような場所だ。


(もう100年も前に立てられた教会らしいけど……)


 それでもまだ建物の状態は新品同様に保てているのは、どうやら建物全体に保護結界が掛けられているかららしい。


 この規模の保護魔法を使うにはそれなりの魔法的な器量が必要になる。

 誰にも出来る事じゃない。



 人族の功績ならば、他種族国家でありながら代替わりできるくらいの人族の後継に恵まれているという事。

 それはそれで人財の潤沢さを内外に示す事が出来る。


 しかしもし一代でこれを保ってるんだとしたら、それはそれで人族よりも長命な種族を受け入れた他種族国家だからこその力だ。

 国内外に十分誇れる成果だろう――なんて事を考えるのは、やっぱり長年王子なんてものをやってきた事の弊害かなぁ。


 瞬間的にそんな考えが思考を掠め、俺は思わず苦笑してしまう。



 一方クイナは流石に「ここは騒いじゃいけない場所だ」と分かったのだろうか。

 終始落ち着かない様子で辺りを見回してたけど、ちゃんと声は潜めながら「凄いのーっ!」と言ってはしゃいでいる。


 最初はいつもより随分と逆立っている尻尾に一瞬「もしかして怖いのか?」と思ったが、キラッキラしてるその目を見ればすぐに「テンションが上がり過ぎての事なんだろう」と想像がついた。


 っていうか、耳がピコピコしてて忙しない。

 体もウズウズして忙しない。

 俺は思わずそんなクイナに笑いつつ、教会の人に目的地へと案内されながら今日の用事について話す。


「今日はな、クイナ。神様から祝福を受けて『恩恵』を授かるためにここに来たんだ」

「……恩恵、なの?」

「あぁ。満7歳を迎えると子供達はみんな教会に行って、一度祝福という儀式を受けるんだ」

「クイナ、もう8歳なの!」

「うん。でも教会に来たのは今日が初めてだろう?」

「その通りなの!」

「だから今日受けてもらおうと思ってさ。『恩恵』っていうのは、神様がその子の性格や潜在能力に合ったもの授けてくれる。きっとクイナにピッタリの贈り物をしてくれるよ」

「ピッタリな……!」


 そう呟いた彼女はワクワクが止まらないという感じだ。

 楽しそうで何よりである。 


「アルドにも『恩恵』あるの?」


 目をキラキラとさせながら聞いてくる彼女に俺は、思わず「あぁ一応な」

と苦笑した。


 確かに俺は、恩恵を二つ授かっている。

 恩恵は基本的に魔法とは違って常時発動の代物だからもしかしたら知らず知らずの内に何かの助けになっているのかもしれないが、普段はあまり意識するような事も無い。


 だけど王族にとっては違う。

 王族がどんな恩恵を授けられるかというのは、その子の将来の資質を測る大切な物差しの一つになる。

 そして俺が授かったのは、残念ながら王子にはそれほど重要でないスキルだった。


(そのせいで俺を支持していない層からは陰で「残念恩恵」と揶揄されていた……なんて事を今思い出しても何の意味も無い、か)


 俺はもう、そんな世界には縁が無くなったのだ。

 気にする必要ももう無いだろう。


「俺が持っているのは『剣士』と『調停者』。『剣士』は先天性の恩恵で、『調停者』は後天的な恩恵らしいけど」

「先天……?」

「あぁ、恩恵には『生まれながらに持ってる物』と『生まれた後の行いによって得られる物』の二種類があるんだよ」


 そう教えると、彼女は「ほへー」っと納得のような感心したような声を上げる。

 

「日々の努力や生き方でもらえる恩恵が増えたり変化したりする所が俺は好き」


 何だかこの『恩恵』の仕組みを通して神様に「確かに才能は大事だけど、才能だけが全てじゃない」と言ってもらえてるような気がするし、神様が一人一人の善行を見てくれているようにも思える。

 だから俺は『恩恵』というものの存在そのものが好きだった。


 が、クイナが引っかかったのは俺とは違う所のようだ。


「じゃぁアルドも増えてるかも……なの?」

「え? あぁまぁそうだな」

「じゃぁアルドも今日、クイナと一緒に恩恵を授けてもらうのっ?」

「あぁまぁ……そうだなぁ」


 前に受けたのは7歳の時。

 それからはもう11年経っているから、確かに増えてる可能性はある。

 

(最初は特に受けるつもりも無かったけどちょうどいい機会だし、何よりもクイナの期待するような視線が痛いし……)


 恩恵は、きちんとした祝福を受けないと効果を発揮するようにならない。

 そういう意味でも宝の持ち腐れにならない様にもう一度受けておくのは、ある意味一つの手ではある。


「よし、受けよう」

「やったー! お揃いなのー!!」


 一体何が『お揃い』なのかはイマイチ分からないけど、多分一緒に受けられる事を喜んでくれてるんだろうし嬉しそうだからまぁ良いか。


 という訳で、俺はクイナと2人で祝福の儀を受ける事になったのだった。


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