第11話 元風俗嬢の悲劇と攻撃
たか子は今、あずさの経営する性犯罪被害者シークの会員になっている。
今はまだ、カウンセラーの役割しか果たしていないが、ゆくゆくは、精神を病んだ人の介護士のような役割を果たしたいと思っている。
なかには、レイプが原因で、恐喝や麻薬に走ったりする女性がいるが、そうならないためには、日常生活で気分転換と楽しみを見出さねばならない。
たか子は、歌とダンスを提案した。もちろん、誰しもが楽しんで気軽にできるもの、できたらゴスペルが最適じゃないかな。バッハも子供の頃はゴスペル隊だったというしね。
たか子は、昔習ったピアノを活かし、ゴスペルのコーラスグループのリーダーをしている。ゴスペルのメロディーは、耳に心地よく響き、歌うと嫌なことを忘れ、なにか目に見えない、この世を超越した力を感じるからである。
まず、自分を変えることから始めなきゃ、自分が変われば隣人が変わり、環境も変わり、未来への扉も開かれる。
自分を制するものは、世界をも制することができるというが、やはり人間、嫌なことがあると、落ち込んだり、人を憎んだりすることだってある。
それが嵩じると、いわゆるマイノリティーに差別の攻撃の矢を向けることもある。
その結果、自分が絶望的になるが、これは悪魔の思うツボだったりする。
よほどのきっかけがないと、無理じゃないかな。
たか子のバイトしているしゅうまい屋に、新人が入ってきた。
いや、新人といっても、以前は勤務していたわけだから、一応は先輩にあたる。
年齢も四十後半だろう。
あまり、上品とはいえない中年女、たか子の抱いた第一印象である。
やはり、たか子のカンは当たっていた。
その中年女ー苗字は光田といった。
光田の仕事は、地下一階で食材の仕込みとそれを一階のホールまで上げるのが仕事だった。
しかし、いつまで待っても光田は一階に仕込み材料を上げてこないのだった。
バイト仲間は皆、光田を敬遠していたので、たか子が光田の運搬の手助けをすることになった。
「おーい。まだ仕込みはできてないのか」
「はい」
たか子は、光田の出来具合を見るが、仕込みは終わりそうにもない。
すると、光田が急に後ろに立っていた。
「あんた今、はいと言ったな」
「はあ」
途端に光田は、そばにあった椅子を投げつけるポーズを始めた。
「あんたの『はい』は人の心を傷つけるのよ。あんた、もう一度は『はい』と言ってみ。私があんたに手をかけないと思ってるのか」
たか子は、アゼンとした。この中年女、頭がおかしいのではないか。さては、今流行の覚せい剤中毒患者!?
光田とは近づきたくない。とっさにまゆかは、光田から身をかわした。
「なあ、ツミダからなにかされなかった?」
「ツミダというのは、光田の陰のあだ名だよ。罪多き女だから、ツミダ。
あの女、少々頭がおかしいんだ。まあいわば、精神障碍者なんだ。
しかし、会社としては税金逃れのためにそういう障碍者を雇用してるんだよ。
更生させるなんて名目でね」
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