第7話 たか子と早朝ホストクラブ
しかし、たか子にはほんの少しあずさの心の傷が理解できるような気がした。
共有したいとは思わないが、理解する必要はある。
だって、全女性、一歩間違えればあずさのようになっていた。いや、この瞬間でも、苦しんでる女性がいるのだから。
有限会社シークは、ホームページを作成していた。
たか子は、興味本位でアクセスすると、意外と女性好みの可愛いデザインだったので、内心救われたような思いだった。
しかし、内容はやはり陰惨とまではいかないが、陰鬱なものだった。
具体的に、どうこうされたとかは書いていない。ただ、その後の暗い傷跡だけが語られている。
なかには、心の傷を復讐心に転化させることで、癒そうと思う人もいる。
世の中には、自分より弱い子供を狙い、児童ポルノに利用したり、地方出身の学生を騙してアダルトビデオに出演させたりすることを企む人もいる。
陰惨で、悲劇的でもある。レイプがその人の人生を狂わせたのだ。
たか子は決心した。私は、シークのカウンセラーになろう。
性犯罪被害者に何かをしてあげられることはできないが、話を聞くことで心情を共感できるのではないか。よけいな励ましは、かえって仇になる。
気にするな、忘れなさい、犬に噛まれたと思いなさい。
そんな言葉は、なんのプラスにもならない。さっそく、あずさに電話してみよう。
いつものように、しゅうまい屋でホール廻りをしていると、妙な気配を感じた。
スマホでスカートの下を写されていたのだ。
しかし、たか子はいつも、スポーツ用のブルーマーを履いているので、写されてもそう被害はでない筈だ。
一瞬、恐怖を感じたと同時に、その男をにらみつけた。
男は一瞬、ひるんだような顔をして、スマホを引っ込めた。
これが車内だったら、腕を掴んで「この人、痴漢です」と言い、目撃者が二人以上いると、間違いなく駅長室に連れていかれるだろう。そうすると、その男は痴漢の加害者ということになる。
何事もなかったように、男は勘定を済ませ、店を出た。
たか子は、早起きしてホストクラブにいく習慣がある。
仕事仲間とは、ほとんど話はしない。だいたい話の内容は決まっている。
異性関係とヒットチャートとファッション。ときおり愚痴程度の上司の悪口はでてくるが、たか子はそういった話がでると、必ず避けることにしている。
店長の中には、過去に「お前は処女か」などとセクハラまがいのことを質問する人がいたらしいが、減給という処分を受けて以来、そんなことを言う人はいない。
友人みたいに気軽に話せるのは、ヘルプホストぐらいのものだ。
担当ホストは、たか子の好みであったが、タレント顔負けの美形で少し緊張するのだった。
ホストクラブに行っても、たか子が飲むのはウーロン茶一杯だけだ。朝から酒を飲むなんてことは、たか子の美学ではなかった。
「わあ、ターちゃん、久しぶり」
「一週間ぶりだね。あ、こちら、新人の隼人君。いい子だからよろしくね」
見上げると、とうもろこしのひげのようなキンキラ金髪を逆立てた、いかにもホストらしい髪型の黒いスーツの男が立っていた。
「ターちゃんっておっしゃるんですか。隼人といいます。よろしくご指導願います」
なんだか、このクラブには似つかわしくもない、バカ丁寧な物言いだ。
あっ、たか子は一瞬、驚愕した。
先日、たか子のスカートを携帯画面で写そうとした男だ。
向こうは、気づいてないだろうか、いや、そんなはずはない。なぜなら、ああいったことをする輩は、顔と下着を投稿雑誌に掲載しようとしているので、たか子の顔は覚えている筈だ。
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