第3話 十年後になりおぞましい事件のかけら

 あれから、十年の歳月が流れた。

 私は、女子大学を卒業したものの、企業への就職は断念して、有名しゅうまい店で契約アルバイトをしていた。

 全国にチェーン店を展開するしゅうまい店は、店員はチャイナ風衣裳に身を包み、比較的安い値段と、野菜中心の薄味を売り物にしていた。

 アルバイトして、もう一か月になるが、一か月単位の更新であり、いつクビを切られるかわからない身分の定まらない、契約アルバイトである。

 一応、ワード、エクセル、アクセスの資格は所得しているが、実践がない限り、履歴書の資格欄を飾るだけである。

 かといって、ニートになることなど、私の気性も家庭の事情も許されないことだった。


「ねえ、オーダー忘れてるんじゃないの?」

 いつも来店するロングコートを羽織った、ミニスカートの二人連れの女性が、いらいらした様子で私を呼びつけた。

「ああ、申し訳ございません。少々お待ち下さいませ」

 いかにも済まなさそうに謝罪し、厨房に行こうとしたとき、いきなり腕を掴まれた。

「ねえ、これあなたじゃないの?」

 見ると、スマホの画面に私の顔が映っている。

「そして、これは十年前のあなたのデータ」

 なんと、そこには小学校六年のときの私の写真が写っていた。

 これはどういうこと?

「私はこういう者だけど、できたら連絡してほしいの」

 そう言ったその女性は、名刺を渡した。


 あなたのデータ? これはどういうことだろう。

 ひょっとして、小学校六年のときのあのおぞましい事件のことだろうか。

 あの、ロングコートの客は、もしかしてあのときうずくまっていた、ロングヘアに白いスーツの女性なのだろうか?

 これは偶然、それとも運命のいたずら!?

 一睡の眠りにつけないまま、興奮状態で、夜明けを迎えることになった。


 四隅の丸いライトパープル色の名刺を見ると、そこには「あずさ」と印刷文字で明記されていた。

 四隅の丸い名刺というのは、お客に渡す水商売独特の名刺なのに、同性の私に渡してもお客にもなりようがないし、一銭の金にもならない筈。

 名刺の裏を見ると、そこには「有限会社 シーク」と記されていて、スマホの番号が表記されていた。

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