第2話 小学校六年のときの忘れようのない悪夢
あれは、小学校六年のときだった。塾の帰り道、友達と二人で駅前の横断歩道を渡っていた。
人通りの多い駅前を歩きなさいよ。ママのいいつけ通り、少し遠回りして、友達と別れた直後のことだった。
白いスーツに身を包んだロングヘアの女性が道端に一人、うずくまっていた。
見ると、地面には血が滴り落ちている。
私は、思わず駆け寄った。その瞬間、私は後ろから何者かに羽交い絞めされ、口元にタオル地のハンカチを当てられた。それからは、何が起こったのかは、未だに覚えていないし、事実のほども定かではない。
きっと、脳の一部である海馬という機能が、思い出さないように私を悪魔のような記憶から守ってくれているに違いない。
家に帰って、ママに一部始終を話した。
ママは、急に青い顔になって泣き崩れた。
こんな苦しそうなママを見たのは、初めてだった。
私は、親不孝をしている。そんな悲しみにも似た、情けない絶望的な感情が私の心身を頭上から、足のつま先まで灰色に覆った。
こんなこと、いつまで引きずっていて何になるの。人生は一度きりの片道切符。一歩たりとも、後戻りはできないんだよ。
そんなことは、とうにわかりきってるわ。
しかし、私はこのことを、脳内の記憶から消しても、身体と感情の記憶からは消し去ることはできず、未だにしこりとして残っている。
いつかこのことが、明るみにでるときが訪れるに違いない。
不安と恐怖と、燃え盛るようなすさまじい怒りにも似た、どす黒い感情が常に私を支配していた。
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