第3話


「あンの小童こわっぱがアアアアアア!!!」


父の激怒に「そうくるわなぁ」と冷静になった。

そう、婚約を打診してきたのはソフィーの父であるカルドラ伯爵。

その息子が不貞の上に相手を妊娠させた上で学園の教室で堂々と婚約破棄したのだから。

これで「落ち着け」と言ったら、火事の中に可燃物を投げ込むようなもの。

……といって、止める私ではないです。


「まあまあ。それでまずは最初に婚約破棄の手続きをしたいのですが」

「それは当たり前だ。今すぐに手続きを……ホレ、これを出してこい」

「ありがとうございます。ではお礼にもうひとつ報告です。『慰謝料に出産祝いと養育費を払え』とも言われましたよ」

「今すぐ軍隊を用意しろ! 大砲と実弾を持って両家を取り囲め!!!」

「あら、面白そう」

「何を指示しているんだ!」


私が楽しんでいると伯父が駆け込んできました。


「あら。オーシャン伯父上、お久しぶりにございます」

「ああ、アン。……三日ぶりか? それでこれは一体……?」

「わたくし、たったいま学園の教室で、それも皆様の前で婚約破棄されてきましたの」

「んっがアアアアアアア!!! あの小童がァァァァ!!!」

「……それがコレの原因か」


伯父も父の激怒を目の当たりにして冷静になったようだ。


「お嬢さん、俺、事務課行って来るんで。ついでにその書類を出してきましょうか」

「あら、お願いしますわ」


副隊長の彼に婚約破棄の申請をぺらりと渡すと執務室から出ていきました。

彼がいないから、指示を聞いていないから、との理由で父の暴走を止めてくれるようです。

父は放っておいても、一人で大砲を肩に乗せて突っ込んでいくとか、マシンガンを全弾撃ち込んで物理的に崩壊させそうですけどね。

それはそれで楽しそうですね。

安全な特等席で見物しなくてはいけませんわ。

もしかして、副隊長は父が武器庫に来ても開けないよう命じに行ったのかもしれません。

……楽しみが減ってしまいましたわ。

ここは伯父にも協力していただいて、別のお楽しみを考えていただきましょうか。


「不貞相手が妊娠したそうです。慰謝料に出産祝いと養育費を払え、とまで言われまして」

「それがさっきの命令か」

「ついでにわたくしの頭が悪いとまで言われましたよ」


フム、と何やら考えている伯父。

伯父の目が据わってますね。

さらに楽しいことになりそうです。

すぐに考えがまとまったようで、顔をあげると活火山状態の父に核弾頭を投げ込んだ。


「二人とも今すぐ陛下に会いに行くぞ。カルドラ卿の娘の婚約を白紙に戻させる」

「よーし! ついでにフィンキーの結婚もぶっ潰してやる!!!」


この国ってさ、なんで子煩悩炸裂の父に軍隊の総大将を、冷酷で簡単に人を切り捨てる伯父を宰相に据えたんだ?



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