第拾漆章 それぞれの道

 殿様から褒美を渡された神子達は次の言葉を待っていた。


「さ~て。城主としての仕事はここまでだ。は~あ。堅苦しい席はやっぱり何度経験しても慣れないな。殿様としての役職辞めたいくらいだ」


にこりと笑い急に空気を一変させた喜一よしくにの言葉に皆面食らった顔で目を瞬く。


「さってと、ここからはもっと砕けて話そう。俺のことは今まで通り喜一きいちって呼んでくれ。っと、まずは神子さんあんたに言いたい事があるんだ」


「は、はい。何でしょうか」


腕を組みにやりと笑う彼へと神子は慌てて返事をして尋ねる。


「今回神子さんはこの世界を救うという大きな功績を残した。それでさ、民達が崇め尊敬する存在として神子さんをこの都へと呼び城の中で暮らしてもらいたいと思ったんだ」


「こいつを宮中に入れるって事か?!」


「まあ、そういうことになるな。神子さんという存在がこの都にいるだけで民は安心して暮らしていけれる」


喜一きいちの言葉に伸介が待てと言いたげに尋ねた。それに彼がそうだといった感じで頷き話すと神子は考え深げな顔で俯く。


「……ごめんなさい。私、今のままの暮らしが好きなんです。それに両親や幼い弟を残して1人で都になんか来れません」


「ま、そういうだろうとは思っていた。だから俺も考えた。神子さんには今まで通り村での暮らしをしてもらいたい。だが神子さんは今まで通りただの村娘ではない。今回の功績をたたえ神子さんに真名を与える。そして神子さんの家の位を村民から豪族へと変える。それにより家と土地を新たに与え、そこにこれからは住んでもらう。勿論家族全員一緒にな」


俯き申し訳なさそうな顔でそう答えた神子へと喜一が意地悪く笑い話した。


「喜一さん本当ですか?」


「ああ、本当さ。ただし民達の動揺を鎮めさせるために城の中に神子さんの住居とされる屋敷は立てる。神子さんは普段そこに住んでるって事にしておいて皆を納得させるのさ。それから都で行われる年間行事には参加してもらうぜ。だからその時期に近づいたら神子さんの家に迎えをやるからそのつもりで」


「はい。分かりました。喜一さん有難う御座います」


驚く彼女へと彼が大きく頷き答えてからそう続けて語る。それに笑顔で頷くと礼を述べた。


「さて、神子さん。あんたの名前なんだが……いろいろと考えていたけどこれに決めた。「ゆい」それが神子さんの新しい名前だ」


「結……ですか?」


喜一の言葉に不思議そうな顔で呟く。


「ああ。いろんな人との心を結びそして皆との絆を結んできた。神子さんにぴったりの名前だろう」


「結……か。私の名前は結……なんだか不思議な感じです」


にこりと笑い言われた言葉を聞きながら先ほどもらったばかりの名前を声に出すと、くすぐったいような不思議な感覚に神子……いや結ははにかむ。


「ま、そのうち慣れるさ。さって次は伸介。お前に話がある。お前の腕は一流の兵士にも負けやしない実力を持っている。そこで相談なんだが武術を学びたいという子供への指南役としてこの都で暮らしてはもらえないだろうか」


「俺が指南役?」


その様子に喜一が言うと視線を伸介へと向けて話す。彼は驚いて大きく目を見開いた。


「ああ。村でも子供に武術指南してたんだろ。それならこの都にいる子供にも教えることはできるだろう。まあ本当は城に仕えてもらいたいんだが、それはお前が嫌がるだろうからな。だからせめて指南役としてこの都に来てはもらえないか」


「俺は今のままの暮らしが性に合ってるんだ。だからこのままのんびりこいつと一緒に村で暮らしたい。……まあたまになら指南役として都に顔出ししてやってもいいがな」


「そう言うと思ってたぜ。それじゃあ週に2回。指南役として都に来て子供に武術を教えてもらうって事でよろしくな」


喜一の言葉に彼が頭をかきながらそう答える。それを聞いて「だと思ってた」って顔をするとそう提案した。


「ま、それなら別に構わない」


「そんじゃ決まりだな。さて次は隼人。お前の実力を側で見ていて気付いた事がある。お前はただの兵士として仕えさせておくにはもったいない人材だ。だからこれからは俺の身を守る側近兵の隊長としてお前を迎え入れたい」


伸介が了承したのを確認すると次に隼人へと視線を送り話す。


「私が隊長ですか?」


「不満か?」


驚く彼へと喜一がにやりと笑い尋ねる。


「いえ、あまりに唐突で驚いただけです。分かりました。その任有り難く請け負うことといたしましょう」


「それじゃあ後で手続きをするからな。さてと次は文彦。お前はその若さで大した薬師だ。その腕を見込みお前を俺のお抱えの主治医として迎え入れたい」


隼人が首を振って答えるとそれに満足そうな顔をした彼が今度は文彦に声をかけた。


「僕が殿様の主治医ですか?」


「ああ。俺の体調を管理しそして薬を処方するのが仕事だ。だがなお前は城にいるだけじゃ嫌だろう。だから普段は民のための薬師として各地へと赴き病気で苦しんでいる民を助けてほしい」


驚く彼へと喜一がそう言って頼む。


「分かりました。そのご命令、謹んで請け負います」


「ありがとな。そんで次は弥三郎。今回の旅でお前の実力を見ていてこのままただの領家の跡取り息子として置いておくにはもったいないと思った。それでお前を城で働く大臣として迎え入れたいと思う」


文彦の返答を聞くと弥三郎へと視線を向けて話す。


「ぼくが大臣?」


「弥三郎様おめでとうございます」


「亜人……有難う」


目を白黒させて驚く彼へと亜人が本当に嬉しそうに感無量だって言った感じにお祝いを述べる。それに弥三郎が悲しそうな顔をしてお礼を言った。


「亜人お前にも話がある。お前の実力は用心棒をするだけにはもったいない。そこで弥三郎を助ける補佐官として共に働いてもらいたい」


「オレが補佐官!?」


そんな主従のやり取りを見ていた喜一が亜人へと声をかける。その言葉に彼が心底驚いた顔をして固まった。


「亜人……僕ずっと亜人と肩を並べて歩きたいって思っていたんだ。だから補佐官になったらこれからは友達として普通に接していけれるよね」


「弥三郎様……」


話を聞いてほっとした顔で弥三郎が話す。亜人は思ってもいなかった言葉に驚いた顔で彼を見詰めた。


「さって、2人はそのままそっとしておくとして。次に真人。お前の人形使いとしての腕を見込んで頼みたい事がある。俺は前からずっとからくりを使った文明道具を開発したいと思っていた。そこでお前を開発部門の責任者として任命したい」


「有難う御座います。期待に応えられるよう頑張ります」


喜一の言葉に嬉しそうにはにかみ真人が答える。


「よかったね、真人」


「おめでとう。真人」


「うん、有難う」


ケイトとケイコがはやし立てるので彼は頬を赤らめながら照れ笑いした。


「さて、次に栄人。お前の実力はただの武士として地方に置いておくにはもったいない。そこで城で働く武官としてお前を迎え入れたい」


「有り難き幸せ。そのご命令心して請け負いましょう」


喜一の言葉に栄人がにこりと微笑み心したといった感じで答える。


「次に優人。お前は腕輪を受け継ぎし者として神子の旅に同行し見事邪神を討ち滅ぼす手助けをした。そこでお前をこの城へと招き俺の側でその知恵を発揮する大賢者として仕えてもらいたい」


「畏まりました。僕の力がこの国のためになるのならば喜んでそのご命令に従いましょう」


彼が言った言葉に優人が承諾するとそう言って微笑む。


「さて、次に。信乃、お前は瑠璃王国の末裔の血をひく者だ。俺は小さい時からもしこの国に瑠璃王国のアオイ様の血をひく者が戻ってきたら、その時は国をそのお方に返上するようにって言われて育ってきた。だから信乃、お前にこの国を返さないといけない」


「へ?」


信乃へと真剣な眼差しを向けて語り出した喜一の言葉に彼女は驚きと戸惑いで一杯の瞳を向けた。


「それから紅葉と蒼。お前達はこの国を救った神様として都にお迎えしたいと思ったが、そんなことお前達は望まないだろう。そして信乃も今まで何も知らずに生きてきた。だからいきなり国を返されたって困っちまうだろう。背負わなきゃなんないモノなんか背負いたかないだろうし。この国のことは俺に任せろ。だから3人は今まで通り仲良く自由に好きなように生きろ」


「あ、有難う御座います」


そんな信乃を安心させるようににやりと笑うと彼が言う。その言葉に彼女は安堵した様子でお礼を述べた。


「お、さすがは殿様ってだけはあってちゃんと人のこと見てるじゃねえか。俺はこれからも信乃と2人で仲良く平穏に暮らして行けれればそれでいい。信乃にももっとこの世界の事見せてやりたいしな」


「2人じゃない。おれもいる。それにお前はこっちに戻ってきたのだからな。おれに押し付けていた仕事をこれからはちゃんとやってもらわないといけない。信乃と2人で仲良く平穏に暮らすという夢はあきらめろ」


紅葉の言葉に蒼がムッとした顔で訂正する。


「はいはい。お山の神様が15年もの間留守にしてたんだからな。これからはちゃんと仕事もするって。だから蒼。これからは3人仲良く珍道中を楽しもうな」


「……信乃に見せたい世界は山ほどある。だからゆっくり世界を旅していこう」


「うん。紅葉と蒼君と3人で旅をするの楽しそうだもの。それに私もこの国の事もっと知りたい。だからこれからもよろしくね」


紅葉が溜息交じりにそう言うとにやりと笑う。それを軽く無視した蒼が信乃へと顔を向けて話す。彼女もそれに頷き笑顔で言った。


「さて、次にレイ。お前の実力はこの城に仕えるどの兵士達にも負けやしない。そんなお前の実力を見込んで俺を守る側近兵として迎え入れたいと思うのだが」


「レイ、良かったじゃないか。これで一緒に働けるな」


レインへと視線を向けた彼の言葉にアシュベルが喜ぶ。


「冗談。私は今のままの暮らしが気に入ってるのさ。まだまだ見て回りたい所もあるしね。このまま自由気ままな旅を続けていきたいと思ってるの」


「そうか。お前の気が変わったらいつでも俺のところを訪ねてこい。お前の席はちゃんと開けておいてやるからな」


「ははっ。気が向いたらそうさせてもらうよ」


にやりと笑いレインが言うと喜一もそう答えるだろうと思っていたといった顔で話す。彼女が盛大に笑うとそう言って了承した。


「次にアッシュ。お前は側近兵として見事俺のことや神子さん達を守り抜いた。その実力を見込んでお前を俺の側近兵から昇格させ守護兵隊長に任命する」


「はっ。有り難き幸せに御座います」


喜一の言葉にアシュベルが敬礼して答える。


「守護兵は常に俺の側につき従い年間行事なんかで俺の横に立つことが許される特別な役職だ。側近兵隊長の隼人と連携して俺のことを守ってもらえると助かる」


「その任謹んでお受けいたします」


話を聞いた彼が嬉しそうにそして誇らしげな顔で答えて敬礼した。


こうしてそれぞれの道を歩むこととなった結達は仲間達に別れを告げてこれからの人生を生きていく事となる。


しかしこれが最後の別れなんかではないと彼女達は知っていて、だからこそまた会える日までそれぞれの生活へと戻っていったのであった。

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