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彼が
「遅かったな
大丈夫と伝えると、ふぅんと納得した様子でリュックにスプレー缶をしまう彼。私は
「
「夜が近づくと元気になるんだ」
「だから学校でいっつもボケっとしてんだな」
彼の自転車カゴの中には、麦わら
「ずいぶん気合入ってるね」
「当たり前だろ。逆に何でお前は、半袖短パンで、虫かごと虫捕りあみと水筒しか持ってないんだよ」
「これだけあれば充分かなと思って、あとタオルも持ってるよ」
「お昼ご飯は持ってきたのかよ」
「水筒があるからいいよ」
「変なヤツ。しょーがないな、俺の弁当、半分
有戸は吐く息と同時に肩を落として
十連十山には古くから「夜、子供をさらい自分の中に閉じ込めてしまう木の化け物」の伝説がある。全く
「そのカブトムシは、どうやって
地平線から注がれる朝日に身を
「擬態に種類があるのは、前の自由研究で発表したよな?」
「
「元気に言うな! 簡単に言うと
「葉っぱだよ! 俺が見たカブトムシはナナフシみたいに、
「じゃあそのカブトムシは緑色だったんだ、すごいね!」
「本当にすごい! あんな完璧に葉っぱに擬態してるカブトムシ、初めてみた!」
私たちは身体を吹き抜ける風に
途中、日が街の道路を焼き始めると、私たちの体力も
それからは、自転車のハンドルを持って押しながら歩いたり、体力が少し回復すればまたばてるまで漕ぎ出したり。その
駐輪場に自転車を
「行くぞ」彼は虫よけスプレーを体にかけ、しみ出す汗をタオルで
*
山道は
「どこで見つけたの?」
質問をしてみるが、彼は応えない。余計な体力を
怖い者知らずのように、
ふと、前を歩く彼の背中が止まった。
「ここから山道を外れた先で、あのカブトムシを見つけたんだ」
辺りを見回すと、私たちの肩まで伸びた空を
「目印をつけておこう」
有戸は近くの木の
「この辺りは雑草が高くて迷子になりやすいからな。絶対にはぐれんなよ」
*
山道で見た時は雑草ばかりが
彼は
「ここだ。ここで俺は、あのカブトムシを見つけたんだ」
足を止めた有戸が、緊張した様子で話す。周囲は行く手を阻むように
「本当にここ?」
「見ろ、あそこ」
彼が指差した先には、不気味に立つ一本の黒木があった。よく目を
「次回来るとき、分かりやすいように目印をつけておいた。絶対に来たかったからな」
その声色に、強い決意の意思を感じる。彼は本気だ、本気で
「じゃあ、今から
持参した虫捕りあみを
「カブトムシは基本、夜行性だ。今から見つけようとすると、土の中を掘り返すほかない。そんなの、夏休み中いくらやったって終わらない」
ここで私は、彼が擬態カブトムシの話をした時から疑問に思っていた事柄を
「有戸くんはそのカブトムシを、いつ見たの?」
「
「昼に見たの? カブトムシは夜行性じゃなかったっけ」
有戸は「
私の疑問にしばし
「桐鍬の言う通り、あのカブトムシは昼行性の可能性もある。だけどその可能性を信じるのは、既存の定義が全て
それから彼は高揚を
「大丈夫だって! 今回は桐鍬が協力してくれるし、夏休みはまだまだ長いからな!」
*
それからは、彼の知識に裏付けされた、カブトムシを
「カブトムシは視覚に比べて嗅覚が発達してるから、甘い
彼はリュックから、
「これを近場の幹に括りつけよう」
昆虫博士の指示通りに、指定された6か所に強烈な臭いを放つ
「それからこれ。とっておきだ」
彼がリュックサックから取り出したのは、クラスの黒板ぐらいはある、巨大な布のシートだった。
「これに残りの餌を
この作業は流石に疲労が
次に、自分たちの背の高さほどの
後は
「それからこれ」
有戸は、懐中電灯を布の端に
「後は、夜になるのを待つだけだ。じゃあそろそろ、お昼ご飯食べよう。山道に
それから
私は補給といえば水筒しか持ってきていないので、彼が持参してきた弁当の具材を分けてもらった。個包装の割りばし袋についている
*
「そういえば
一つだけのおにぎりを
「僕は大丈夫だよ。それより、
「俺はいつも通り、虫捕りって言った。気を付けてって言って送り出してくれたよ」
それからは無言で、彼は割りばしで、私は
「何か、樹液に
同じ箱から同じ具材を食べながら、有戸はそんな冗談も
土のくすんだ
「そういえば、どうして
私が
だが次に面を上げた彼の顔は、
「虫って、
「
「うるせぇよ! んでだな、中でもやっぱり
ハナカマキリって知ってるか? あれ最初は花に見た目を擬態させて獲物をおびき寄せてるって通説だったけど、最近の研究だと、餌をおびき寄せてために擬態元の花に似た
すっかり準備でへとへとのはずなのに、虫について語る彼の姿は、何にも増して
「そんでさ。いつかもっとすごい
「その可能性は信じるの?」
「むしろ、既存の擬態定義をすべて
目を
弁当の具材を食べおえ、しばしの
「今日もそうだけど、有戸くんカブトムシ好きだよね」
「大好きだぞ」
「どうして大好きなの?」
質問が終わるとほぼ同時に、彼は純朴な
「カッコいいから!」
〈続く〉
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