告白
時計台の時計は午後6時を指していた。
明らかに早く着きすぎた。
全くどんだけテンション上がってんだよ俺。
僕はそんな自分に少しうんざりしながら
彼女を待った。
どこかに行っても良かったが、正直行くところもなかったし、何よりドキドキしていてそれどころではなかった。
僕は時計台に体を預けて、誰からの連絡も入ってこないスマホを眺める。
今日こそは、彼女に渡そう。
ずっと機会を伺ってきたが、なかなかそのチャンスが来なかった。だが、今日はもうこれ以上無いくらいに完璧だった。
もし渡したら、なんて言うかな。驚くかな、怒られるかな、笑ってくれるかな。
なんてやけに甘い妄想をしてると、いつの間にか7時になっていた。
「ご、ごめん、待った?」
彼女が僕に会うなり気を使って聞いてくる。
無論、僕が早く着きすぎただけなので藤原さんは何も悪くない。だが、
「え、あの、待った、っていうか、その」
僕が早く着きすぎただけだから気にしないで、なんて気の利いた事は当然言えなかった。
「まぁいいか、と、とりあえず行こうよ。」
彼女は僕のオドオドさに気を取られる事もなく、明るく話しかけてくれる。
「う、うん。」
僕もなるべく明るく返事をする。
駅前はまるで異世界に迷い込んだかのように綺麗だった。
周りはカップルだらけでイチャイチャしていた。
僕はそれを見てここに来たのが急に
恥ずかしく感じた。
あぁ、一緒に行こうとか言わなければ良かったかも。しかし、彼女にアレを渡すには今日しかない。
僕は勇気を振り絞って彼女とイルミネーションを見て回った。
それから1時間ほど、僕たちはイルミネーションデートを満喫した。
「イルミネーション、めっちゃ綺麗だったね。」
「うん、そうだね。」
彼女が少しうつむきながら言う。
「その、ありがとう。私を連れて来てくれて。私、誰かとこうやってイルミネーションとか見るの、初めてだったから、嬉しい。」
僕は彼女にありがとうと言われたのが嬉しくて、思わず笑顔で答えた。
「僕も、藤原さんと一緒に見れて嬉しかった。ありがとう。」
渡すなら今しかない。
僕は直感的にそう感じた。
今、一生分の勇気を使う時が来た。
僕は、おもむろに口を開いた。
「あ、あ、あのさ。」
「ん?どーしたの?」
「そ、その。わ、渡したいものがあって…」
「え、な、なんて?」
声が小さかったのだろう。
彼女が聞き返してきた。
しかし、それで僕の自信は完全に喪失した。
「な、なんでもないよ。ごめん。」
「何よ、気になるじゃない。」
「ほんとに何でもないから。」
すると、藤原さんは静かに言った。
「分かった。」
「じ、じゃあ、そろそろ帰ろうか。」
「そうね。今日は楽しかったよ。バイバイ」
彼女が笑顔で言った。
「ぼ、僕も楽しかったよ。バイバイ」
僕も精一杯の笑顔で返した。
帰り道、僕は1人で反省会をしていた。
どうして、あの時渡せなかったのだろう。
もう何回これを繰り返しているのだろう。
僕は、いつまでも経っても何も変われていない。今でも女子に対する抵抗感は完全に拭えない。それでも僕と優しく接してくれる彼女に恩返しをしたいだけなのに。
クラクションが鳴った。
信号無視してくるトラックの存在に、
僕は気づかなかった。
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