裏切り者

花菜と高原君の姿がそこにはあった。


花菜は思いを高原君に伝えたあと、じっと彼を見つめていた。







私は見ていられなかった。

思わず駆け出した。


「え、千遥?」


花菜と高原君が私に気づいたようだ。

しかし、私にはそんな事、関係がなかった。

今は一刻も早くここから立ち去りたかった。



私は全力で走りながらも、頭の中はさっきのことでいっぱいだった。花菜が高原君に告白していた。そんな気配1つもなかったのに。









裏切られた。










直感的にそう感じた。


花菜だけは私の気持ちを理解してくれているって信じていたのに。


その花菜に裏切られた。

そのショックは計り知れなかった。

私は余計な思考を忘れようと頭を振った。

しかし、どれだけ忘れようとしても脳裏にこびりついて離れない。


いつの間にか目に涙が溜まりだした。

その時、


「藤原さん。」


その声で私の足は自然に止まった。

息を切らした高原君が私の前に立っていた。




「藤原さんには誤解して欲しくなくて。

僕の話を聞いて欲しい。」

「いやだ。」

「なんで。」

「知りたくない、2人の関係も何もかも。

これ以上惨めな気持ちになりたくないの。」

「惨めな気持ちになんてさせないよ。」

「もう信じられない。花菜だけは信じてたのに目の前で裏切られたし、高原君だってどうせ…」


「断ったんだ!」

彼の大きな声で私の悲痛の叫びは遮られた。


「鈴森さんの告白。」

「だから何よ。」

「だ、だから、僕は藤原さんに誤解して欲しくないんだ。」

「何を?」

「僕の気持ちを。」

「誤解なんてしてない。考えられないし。」

「じゃあ知って欲しい。」

「知って欲しいなら教えてよ。」


彼は沈黙した。

この世で一番ゆっくり時間が流れていた。


やがて、彼はとても小さな声で言った。















「藤原さんの事が好きだ。」














「…え。」







世界を流れる時間が完全に止まった。


私はそう感じた。


彼は言ったっきりずっと下を向いていた。

やがてまた口を開いた。


「だから僕は藤原さんを裏切らない。絶対に。それでももし藤原さんが僕の事信じられないと言うなら、僕はなんでもするよ。」

それは小さな声で、でも覚悟を決めた声だった。


「ホントになんでもするの?」

「うん。」










「じゃあ。わ、私と、付き合って欲しい。」













私は彼の目を全力で見つめた。


すると、ふと彼は笑顔になって応えた。













「うん、よろしく。」

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