話かける勇気

あれから1か月が経とうとしていた。

しかし、あれから私は一度も高原君と話をしていなかった。


正確には何度か高原君は私に話しかけてくれたのだが、彼に話しかけられるたびに

私はぎょっとして、もごもごして、下を向き、返事をすることが出来なかった。




あれだけ変わろうとしていたのに、何も変わることが出来なかったのだ。




やがて彼から話しかけてくれることもなくなり、私と彼の間には一切の会話が

なくなった。










今日は2回目の席替えの日だった。




私は教卓に向かう。くじを引く。

くじを開け、黒板に書いてある場所と自分の番号を照らし合わせて座る。

ふと、隣を見る。


「え、なんで。」

思わず声が出た。


横にいるのは高原君だった。

「あ、え、え?」

彼も想定外だったらしい。

私を見て、すぐに目を逸らしてしまった。


それもそうだよね。

何回話しかけても無視されるようなやつとは顔も合わせたくないのだろう。



私はかなりブルーなテンションになっていた。

いつから私は人と話すのに怯えるようになってしまったのだろうか。

高3になって心機一転やっていこうとしたのに、スタートダッシュで思い切りつまづいてしまった。


その時、ふと肩に重みを感じた。

振り向くと、彼がこっちを向いていた。


「あ、あ、あのさ。」

私の全身に衝撃が走った。

私に話しかけようとしてくれてる。

どうしよう、怒られるのかな。


まぁ怒られても仕方ないよね。

なんて半ば諦め気味に思っていると、


「ごめん。」

「…え?」

「俺が急に話しかけたから、もしかして緊張とかしちゃったのかなって。」

「その、それがほんとに申し訳なくて。」


「え、あ、あ、あ。」

私は声が出なかった。

彼は、私が返事をしなかった事を自分のせいだと思っていたのか。


違うと言わないと、そうじゃないって伝えないと。


「あ、あ、あの。」

「どーしたの?」

彼が心配そうに私を見つめている。


「あ、え、その…」



喉に何かがへばりついている感じがする。

言えない。言えないよ。


結局私は彼に返事を返せなかった。


たった一言伝えることが出来なかった。

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