第33話 思考
この国はとても綺麗な自然に囲まれている。
川も森も全て綺麗で、小鳥のさえずりがいつでも聞こえてくる。
風が吹けば、土の香りだろうか。
とても気持ちが良い。
僕は大学の前にある川を眺めながら講演会について1人思考していた。
特にこの障害に対して、先ず考えた。
この障害になって、僕は職を失い、彼女も失った。
そして、何もかも投げ出したくなって、死を選んだ。
ここまで考えて、もう考える事を諦めたくなった。
自分に向き合えないと考えたからだ。
自分の傷口を開いて何になるのか。
自分に向き合うことがこんなに大変な事だとは思わなかった。
少し、休憩をし、気分を落ち着かせてから再度考えた。
僕は紙に書き出すことにした。
頭の中だけだと、まとまらない気がしたからだ。
手を動かし、書き出し、それを目でみる事で思考が整理される。
この障害になってから、嫌な事ばかり浮かんできたが、
プラスの面と、マイナス面はバランスしているはずだから、
僕はこの障害になって何か得られたものは無いかを探してみた。
直ぐには見つからなかったけれど、
1つずつ見る事でぼんやりとだが隠れていた輪郭が少しずつ見えてきた。
先ず、何度も確認する事が多くなったけれど、
その分、物事を深く追求する事が出来る様になり、
整体技術にしても人よりも詳しくなる事が出来た。
そして、強迫性障害をコントロール出来てきて、
何よりもこの確認する事でミスがほぼゼロになっていた。
経理業務も自分でしているがミスが本当に少ない。
何よりも強迫性障害を知る事で、
自分が知らなかった世界を知る事が出来ている。
トイレに行く度に身体を洗わないと気持ち悪いと感じて困っている人がいる事。
それは本当にこの障害にならなかったら
知らないまま人生を終えていたかも知れない。
姉の死、これは本当に辛い出来事だから考える事をスルーしようと思ったけれど、
姉の死がきっかけでミーと暮らす事になった。
ミーが今この瞬間に夢中で生きていくその姿を見て僕は頑張る事が出来た。
姉の言葉にもう1度励まされた。
『ここまで努力して、精一杯やって、
それでもこのレースで上手く行かなかったのであれば、
違うレースで頑張ればいいじゃない。
1つのレースで上手くいく人もいるかも知れない、
でもそれは人それぞれよ。
それも含めて個性じゃない?
あなたはあなたの道を探していきなさい。
そして、覚えておいて。
音楽をここまで追求してやってきたあなたの努力は無駄にはならないから。
あなたが手にマメを作りながら何度も叩いていたドラムだって私は忘れないわ』
この言葉を思い出し、また救われた。
何よりもこの障害になった事で整体という仕事に出会う事が出来て、
自分は人に感動を与える事が少しではあるが出来ている。
リョウコ、サエコ、この2人と出会った事で、
僕は色々な事を知った。
自分自身の嫌な面を2人には見せてしまったと思う。
自分の人生の中でずっと続いてきた終わりの無い円を僕は断ち切る決心をした。
1つひとつ思考をしていくうちに、
書き出していくうちに自分自身がきちんと整理されていった。
自分自身が伝えたい事が少しずつ、少しずつ見えて来た。
僕は帰国前にサムの部屋に立ち寄った。
「サム、見えたよ。ヒントをくれてありがとう」
「何を言うんだよ。お礼を言いたいのはこっちだよ。
お前がくれた言葉で今の俺がいる。ありがとう」
僕達は強く、強く、強くハグをした。
言葉には力がある事を改めて知る事が出来た。
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