第29話 怪我
香川 誠也、25歳。
元スキープレイヤー。
彼は、一時期はオリンピックに選ばれる程の人材であったがある大会で横転し怪我を負った。
それから、彼は引退し、今はスポーツトレーナーをしている。
自分自身が怪我をして悔しい思いをした為、
若手に同じ気持ちを味合わせる事の無いように指導する為だ。
彼は未だに足の怪我により可動域が狭く、
時々ほぐしに僕を訪れた。
手術痕が未だにはっきりとわかり、とても痛々しい。
彼は、一時期は自殺を考える程、自分自身を責めたらしい。
「先生、今日もいつもの場所をほぐして下さい」
「分かりました。では先ずはゆっくり伸ばしていきましょう」
「う~。気持ち良いな~。」
「最近、生徒さんはどうですか?」
「生徒たちも大会に向けて頑張っていますよ。しっかり準備させてます」
「そうですか。この大会で優勝を目指す事が1つ目標ですものね」
「その通りです! 生徒はその為に、人生のすべてを捧げていると言っても過言では無いです。僕が起こしてしまった失敗をさせない為にも全力で指導していますよ」
彼は、怪我のきっかけとなった大会の日、
準備運動をしていなかった。
元々そんなに準備をするタイプでは無かったようだが、
その日はいつも準備をそんなしなくても優勝出来ているから大丈夫だろうと考え、
そのまま大会に出てしまった。
それが原因で怪我をしたかどうかは分からないけれど、
可能性は間違い無くあるだろう。
油断してはいけない。
彼はとてもその事を後悔して、ずっと自分を責めて、塞ぎ込んでいたようだが、
いつまでもそのような事では前に進めない、
1歩ずつ前進しよう、
今、死なずに生きている限り自分に出来る最大限を実施していかなければならない。
そう考えて指導者の道に進んだと教えてくれた。
僕なんかと比較してはいけないけれど、
自分自身も夢を諦めた経験がある。
それでも生きていかなければならない。
夢が叶わなかったとしても、
それでも前に進めていかないとならないのだ。
何故自分はこんな目に合うのか、
何故自分だけが。
どれだけ考えても現実は変わらない。
先に進んで行くしかない。
人生1つのレース、1つの道だけで上手くいく人もいるかも知れない。
でも、そうじゃない人もいる。
受験で上手く行かない人、
障害を抱えて夢を諦めなければならない人、
才能が足りなくて諦めなければならない人、
それでも違うレース、道を探していく。
それが大切だ。
自分はこの道を進んでいる。
この先が安泰かは分からないけれど、
歩みを止めず歩いていく。
香川さんもそうだろう。
香川さんの中では新しい世代に自分が経験した中で学んだ事を若手に伝えていく事が自分の新しい人生の生きがいになっているのだろう。
1度失敗したから全てが終わりになる訳では無い。
これは僕の姉が教えてくれた事でもある。
「先生、今度、うちの生徒にもこの施術受けさせたいので、連れてきますね」
「分かりました。是非! 全力でほぐしますよ!」
「いつもありがとうございます。先生の笑顔を見ていると元気になります」
そう言って、香川さんは生徒の元へ向った。
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