第28話 金
宮村 充、27歳。
起業家である彼は既に年収3億円は超えている。
資産も何十億とある噂だ。
一流企業に就職後、営業マンとして活躍し、
サラリーマンをやりながら投資を行い、資金を増やし、グループ会社を設立し起業。
また、グループ会社には複数の社長を配置し、自らは会長ポジションだ。
宮村さんは、毎日3時間睡眠で仕事をしていて、
最近は腰痛が酷く、うちの整体院に通っている。
とても早口で物凄く頭の回転が速い。
「先生、今日も腰の調子が悪くて、少しほぐしてもらえますかね?」
「分かりました。そちらのベッドに横になって下さい」
宮村さんの腰を触ると、まるで鉄の様にとても硬かった。
「宮村さん、しっかり休めていますか? 湯船に浸かったり、ストレッチしたり出来ていますか?」
「先生、そんな時間は僕には無いんですよ。毎日、毎日、ビジネスで勝つことに集中している。あ、もしもし、今、整体だからまたかけ直すから」
宮村さんは、次から次へと鳴る電話に対応し、指示を出している。
配下の社長もまだ若手が多く、
宮村さんがしっかり指示しないと組織が回らないようだった。
彼は日本で今、最も注目されているやり手起業家だ。
一度、自宅にお邪魔した事があり、
彼が主催の新規ビジネスの会議にも参加させて頂いた事がある。
一応、僕も整体師として開業しているから
起業家として参加してみないかとの事でお誘いを受けた。
その会議には同世代の日本中のエリートが集まる会議だった。
元官僚、メガバンクの行員、一流企業の社員などあらゆるジャンルの人材が集結、
そのメンバーを束ねていたのが、宮村さんだ。
独特のカリスマ性でまさに、王のような存在。
色黒で何とも言えない存在感で、
多くの人が宮村さんについていってしまう。
引き込まれてしまう。
高級住宅街にある高層マンションに住む彼は基本的に家の鍵をかけない。
全開放状態だ。
いつでも沢山の人が訪れる。
彼が寝ている間に配下のメンバーが会議を始めたり、
パーティーを開催したり、
僕の価値観からするとカオス状態だったが、
宮村さんは何も気にならないらしい。
一度、鍵を開けている事や、
色々な人が自宅を勝手に出入りする事について聞いてみたが、
彼はこう言った。
「俺は、人が好きなんです。だからそんな事、何も気にならない」
自分とは全く違う価値観でびっくりしたが、
こういった器の人間が多くの人を束ねていくものなのかも知れないなと思った。
部屋には見習いのビジネスマンが寝泊まりしていたりして、
彼からビジネスを学ぼうと必死だった。
この辺りも懐が広いからこそ出来ることだろう。
普通誰かを家に住まわせるなんて家族でも無い限りしたくないはずだから。
男女問わず色々な人が集まるこの家はとても不思議な空間だった。
部屋がたくさんあるから
中には男女が激しいセックスをしている事もあった。
「これから、するのでちょっとドア閉めますね」
など挨拶代わりに言ってくるのがまた驚きで、
僕の脳はちぎれそうになった。
ことを終えると女性の方が先に部屋から出てきて、
乱れた髪を整えながら、
『こんばんは』と僕に挨拶をしてきた。
とても美人でハーフだろうか。
職業はモデルのようでその子の本をプレゼントで2冊貰った。
先ほどまでぐちゃぐちゃにこの子を抱いていた男に少し嫉妬したが。
まぁ、それは考えても仕方が無い。
でも自分の直ぐ近くで、
ほぼ同じこの空間でこのモデルの子が動物のような熱いセックスをしていたのかと思うと僕は少し興奮した。
宮村さんの事業は、輸入、輸出、不動産、アニメ関連、
インターネット関連、会計事務所、法律事務所、飲食業など多岐に渡った。
僕も宮村さんの配下に入らないかと言われたが僕は丁寧にお断りをした。
宮村さんのビジネスの仕方と僕のビジネスの仕方が違うからだ。
彼は、本当に毎日、毎日、ビジネスだ。
どんな時も常に大金の為、ビジネスをしている。
毎日新たな人を家に招き常に情報収集をして、
新しいビジネスを生み出している。
そのビジネスの仕方を配下のメンバーにも期待する。
これでこそ億を稼ぐビジネスが生み出される。
僕はそれを間近で見て、
そして共に会議に参加させて頂く事で、
自分自身の生き方とは違うと思った。
彼を否定している訳では無い。
ただ、側にいると、自分には到底ついていけないアグレッシブさなのだ。
実際にそういった人と関わってみると、
自分には自分のやり方がある、
自分の経営の仕方があると再確認出来た。
もちろん、どう計算をしても僕の整体では彼のようには稼げないけれど、
それでも僕は良い。
これも宮村さんと出会えた事で腹落ちする事が出来た。
そうじゃ無ければどこかで、億万長者に憧れて、
タワマンに憧れ、もしかしたらどこかで何らかの未練を抱えていたかも知れない。
もしかしたらだけど。
人生には大切な事がある。
先ず、自分がやりたいと思うならその世界に飛び込むなり、
人に関わるなり、
行動する事が大切だ。
その上で判断しないとならない。
例えばラーメンでも実際にスープを飲んで、
麺を食べてみて本当に美味しいかどうか分かる。
自分にあうかどうか分かる。
ラーメンという情報だけでは駄目なんだ。
体験が伴い知恵の階層まで深く関わらなければ。
「先生、ありがとう。随分軽くなったよ。さすがな腕だね。
是非、いつでもうちの傘下に入る事が出来ますから、
何かあればいつでも言って下さいね」
そう言うと、宮村さんは急いで打ち合わせに向かった。
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