第27話 撮影

僕は加藤さんと木村君にお店を任せて白鳥さんとの約束通り、

撮影の前に合わせて楽屋を訪れた。


「先生! 来てくれてありがとう」


「いえいえ、とんでもないです」


白鳥さんは、台本を片手に僕を出迎えてくれた。


今日は衣装なのか青いドレスを身にまとっている。

いつも綺麗だが本日は一段と綺麗だ。

これが女優の美しさかと酔いしれていると、

白鳥さんがお茶を持って来てくれた。


「さぁ、飲んで。これがまた美味しいのよ」


「はい。ありがとうございます。すごく美味しいです。

最後に少し甘みを感じますね」


「そうなんです。これをいつも飲んでから撮影しているの」


「こんな貴重な物、ありがとうございます」


「いえいえ、わざわざ来て頂いて、こちらこそありがとう」


さっそく、僕は白鳥さんの首の施術を行い、

硬くなっている筋肉をほぐした。


楽屋には何種類もの衣装があった。


華やかな世界なのだろう。


でも、白鳥さんはとても悩み苦しみながら役を演じている。

もちろん楽しみもあるだろう。

僕は1つ白鳥さんに質問をしてみた。


「女優をしていてとても幸せだった事は何ですか?」


「先生、急にどうしたんですか? そうね……、

やはり、人に感動を与えられる瞬間が幸せ。

どんなに辛くても吹き飛ぶわ。


もちろん、前に話したように毎日、辛い事が沢山あるのだけれど。


映画を観て涙を流してくれる人がいる。

喜んでくれる人がいる。


そして、作品作りをする中でたくさんの人と力を合わせて1つの作品を作り上げる。

出来上がった時の達成感もとても幸せ。

自分のセリフに音楽が重なったりする時も作曲してくれた人、

そこに音楽を入れて編集してくれた人、

そもそも撮影してくれたカメラマン、

指示をしてくれている監督。

色々な人の協力があって1つの場面が出来上がる。

何かジーンとするの。

先生は仕事をしていて幸せ?」


急に質問で返されると思っていなかったので、驚いたが、

少し考えてから僕はこう答えた。


「そうですね。今の仕事はとてもやりがいを感じています。

お客様の健康に少しでも関われる仕事をしているので。

それが結果、自分の健康にも繋がっています」


「自分の健康?」


「はい。お客様が元気になる為にも自分自身が元気で無ければなりません。

その為に、自分の食事や運動に気を付けるようになりました。

そして、何よりも、元気になっていくお客様の姿を見ると嬉しくて自分自身も元気になるんです」


「素敵。私も、先生を見習っていかなきゃ」


「何をおっしゃいますか。私が白鳥さんを見習わなければなりません」


「それでは先生、同じ時代に生まれてこの世界で出会えたこの奇跡に感謝し、

共に成長していきましょうよ」


「分かりました。約束です」


「約束ですよ。そして、先生も私のチームですよ! 

私が元気に演技出来るのは先生がいつも施術してくれるからだよ!

 感動出来るシーンを作れるのは先生のお陰だよ。ありがとう」


一瞬時が止まった気がした。

僕はこの言葉に大きく、大きく、大きく救われた。

生きていて良かったと心から思えた。


「白鳥さん、本番です! 準備して下さい!」


「はい、今、行く!」


「先生、良かったら撮影を観ていってよ」


「え? 良いんですか?」


「もちろん、このカードを首から下げていけば大丈夫だから」


「分かりました」

そう言うと、僕は撮影スタジオに向かった。


テレビで見るのとまた違い、とても不思議だった。


倉庫のような所に、部屋が設置されている。


こんな風になっているんだなと感心していると、

さっそく白鳥さんの出番が来た。


そこにはいつもの白鳥さんの姿とは違う、

何か別の人格が憑依しているかのような演技だ。

女優なのだから当然なのかも知れないが、

こんなに沢山のスタッフがいる中で普通は緊張してあのような演技は出来ないだろう。

涙を流し、そして、目線、表情1つ1つに感情を感じる。


僕はこれが、才能なんだと思った。


間違い無く努力もあるだろう。


でも音楽をやっていた僕には分かる。


芸術の分野で活動していたからこそ分かる。


これは選ばれし者の演技だ。


女優をする為に生まれて来た人と言える。


僕はこれを間近で見ることが出来て良かったと思う。


音楽を諦めた時にもう未練は無かったが、

これを見れば未練さえ持つことが恥ずかしい。


撮影が終わり、白鳥さんはこっそり僕を呼んだ。


「ねぇ、演技どうだったかな?」


「言葉では上手く言い表せないのですが、

白鳥さんにしか出来ない演技です。

他の誰にも出来ない個性があって、とても、とても感動しました」


「それは、先生もだよね。先生の手技だって先生にしか出来ない技なんだから」

白鳥さんはとても優しい笑顔で僕の手を握り、そしてハグをしながら言った。


僕は白鳥さんを元気にする為に来たのだが、

僕が逆に元気を貰った。


やはり、人生は1人では生きていけない。

色々な人に支えられて生きていくんだ。


もっと、もっと人生を味わい尽くしていきたい。


この地球というアトラクションを最大限楽しんでいきたと僕は思った。

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