しのぶれど

ずっと、隠してたつもりだった。



私は、春の終わりに恋をした。

太陽みたいに明るくて、春風みたいに優しい人。


進級して新しいクラスになり、一際明るい雰囲気を纏った宮園一樹くんは男子と話すのが苦手な私にも優しく話しかけてくれた。

とある春の終わりの日、春風が運んできた低気圧に私は苦しんでいた。

私は、偏頭痛に加えて花粉症でぼーっとしていた。

こんな中で800mも走れるのか私。

「鮎原!こっちにストップウォッチ取りに来て!」

体育の先生に呼ばれ振り向いたその瞬間、隣でやってた男子が投げたソフトボールに肩がぶつかり、


その場に倒れ込んだ。

ああ、地面固い。痛い。


と思ったけど、いつまで経っても襲ってこない痛みに目を開けると、

「大丈夫?」

覗き込む宮園くんの顔がそこにはあった。

水分補給からの帰りにちょうど立ち会ったらしい。

「朝から体調悪そうだったよね?保健室、いこっか」

そう言って私を立ち上がらせた宮園くんは、先生に声をかけて保健室へ先だった。


「先生、鮎原さん体調悪そうなので保健室連れてきます」

「おう、わかった。ごめんな鮎原、気づいてやれなくて」


この瞬間、私は恋に落ちた。


そう自覚した瞬間、私の顔はみるみる赤くなった。


でもわかってる、宮園くんはクラスみんなに人気があることは。

今だって女子の視線が痛い。

絶対今恋に落ちたよね。そういう女子の声が聞こえた。


この恋心は、隠さなきゃいけない。





しのぶれど 色に出でにけり 我が恋は

物や思ふと 人の問ふまで


心に秘めてきたけれど、顔や表情に出てしまっていたようだ。

私の恋は、「恋の想いごとでもしているのですか?」と、人に尋ねられるほどになって。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る