第20話 村の日常

 スタンピードから1年が経ち、ヤマトも村に馴染み、村に穏やかな…しかし以前とはちょっと違う日常がやって来た。



      コッケコッコ――――――――――――――!

 

    早朝のさわやかな空気に、元気な鶏の雄たけびが響き渡る。


コケ――!コココケッ!コッコッココケ――!クックドゥードゥルドゥー!


『って、うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』


 この俺、ヤマト・アールピジー・マジマが寝泊まりしているのは家の横にある納屋である。そこに、専用の住処を作ってもらったのだ。

 広すぎず、狭すぎず、ちょうどいい広さのリビングに、専用の餌箱。山から流れて来る澄み渡った水がすぐ近くを流れ、そのせせらぎの音は心も体も癒してくれる…。


 こんな、最高に快適な住処ではあるが、一つだけ、たった一つだけ、大きな欠点があった。

 そう、鶏小屋が近いのだ…!


 こちらの世界でも、朝に鶏が謎の雄たけびを上げるのは一緒なのだが、元の世界と違うのは、鶏のサイズだ。

 元の世界では、鶏は大きくても小型犬サイズだった。しかし、こちらの世界では大型犬ほどの大きさがある。更には、元の世界の鶏よりも遥かに活発なのだ。


 そのおかげで俺は、いつも早朝に起きてしまうようになってしまった。

これだけ聞くと、健康的だと思う人もいるかもしれないが、夜行性の俺にとっては致命的だ。やっと眠ったころに鳴き出す奴らに、何度も安眠を妨害されるのだ。

 “なんだ、その程度”などと思う人がいるのなら、経験してみると言い。必ず鶏を絞め殺したくなるはずだ。


 まぁ、そんなこんなで目が覚める。


…俺の朝は早い。いや、これは鶏に強制的に起こされるのも関係はしているんだが、それ以外にも理由はある。


 そう、俺には立派な使命があるのだ。毎日決まった時間に、籠を引きずって村の家と言う家を回って行かなければならない。これをしないと、俺は今日の食事にありつくことができないのだ。


 納屋から籠を引っ張り出していると、母屋の方からヘレナの怒鳴り声が聞こえてきた。

 これも毎朝のことで、寝起きの悪いソフィが母親のヘレナに叩き起こされるのだ。


 そして、しばらくするとパジャマで寝ぼけ眼のソフィが鶏の卵を取りに来るのだ。

鶏が大きい分、卵も大きいかと思えばそういうわけでもなく、Lサイズの卵ほどの大きさだ。


「ふぁ~~ぁ…うぅぅ、まだ寝てたいぃ…。鶏さぁん、卵貰ってくねぇ…ふぁ…」


 ソフィが卵を回収し終えた後に俺は声をかける。鶏どもは俺を餌として認識しているようで、卵を取り終わらないうちに近くに寄って行くと、執拗に突かれるのだ。


『おはよう、ソフィ。そろそろ一人で起きれるようになれよ。』


「うぅぅ…おはよー、ヤマト。それがねぇ、どうしても起きれないんだよねぇ…。」


『冒険者になったら、どうやって起きるつもりだ?』


「大丈夫!冒険者はいつでも好きな時間に起きられるから!」


『いや、早朝のクエストとかあるだろ…』


 ソフィの肩に乗り、どうでもいい会話をしながら、一緒に家へと入っていく。

家に入ると、既に朝食が用意してあり、いい匂いが家中に満ちていた。


「はいっ、お母さん。卵とって来たよー」


「ありがとね、さっ、ごはん出来てるわよ。さっさと食べなさい。」


「ふぁ~い」


 ヘレナさんは卵を受け取り、冷蔵庫のような箱に入れた。

これは、転生者が発明した貯蔵道具で、中には保存の魔法の呪文が刻み込まれているらしい。


 …なぜ氷の呪文ではなくて保存の呪文何だろう…?形状と言い、機能と言い完全に冷蔵庫なのに…。

 保存の魔法なので、そこから出したものは冷えておらず、常に常温だ。そこから出したものは、入れた時と全く変わらない状態で出てくるので、食あたりの心配など全くない。

 …保存の魔法と言うか、時間停s…考えないでおこう。


「おはよう、ソフィ。ヤマト君も。」


 既に起きて、剣を振ってきた後であろうルーウィンさんが挨拶をしてきた。ルーウィンさんは朝早く、日が昇る前に起きてきては庭で剣を振っている。腕が鈍らないようにしているそうだ。


「おはよー、お父さん。」


『おはようございます。』


「ふぅ、ご馳走様。さて、僕は畑に行ってるからね。」


 このように、いつも朝早くから畑仕事をしている。まぁ、これはどの家にも共通することではあるのだが。

 この村は、農業を主な産業としており、特産品は回復草らしい。

 本来、回復草は山の奥深いところにしか生息していないような植物で、強力な回復作用を持っている草のことを指す。この村は、そんな回復草を栽培しているというのだ。


 …いや、おかしいと思うのは分かるが、ちょっと聞いてほしい。

なんでも、この村は過去に偉業を為した英雄と呼ばれるような人たちがスローライフを送るために造った村らしいのだ。


 まぁ、その時にやっぱり知識チートを使って色々やらかしそうになった人がいるらしく…その名残が回復草だとか、冷蔵庫型の貯蔵庫らしい。


 冷蔵庫は、形は再現できても、氷の魔法の刻印だと中のモノが完全に凍るため、保存用の魔法…と言うか、時間停止魔法を刻印したのだという。


 まぁ、スタンピードの時に気付いておくべきだったのかもしれない。

そもそも、一国でも手を焼くようなスタンピードを一晩で殲滅させられる村がどこにあるというのか…。ここか。


「ん?ヤマトどうしたの?急に変な方向向いて考え出したけど。」


『いや、異世界の不思議さを体感していた…』


「?」


 そんなこんなでソフィの朝食が食べ終わると、俺は仕事に出かける。


 納屋から仕事用の籠を持ってきて、ソフィに括り付けて貰ったら、仕事に出発だ。

籠を持って村中の家と言う家を回るのだ。


『おはようございます~。今日も受け取りに来ました~』


「あらあら、いつもありがとうね。捨てに行くのめんどくさいから、助かるわぁ。」


『いえいえ、いつもごちそうさまです。この家の野菜クズの味は格別ですよ。』


「あら嬉しい。育てたものを褒められるっていいわね。でも、うちの子は野菜が嫌いでねぇ…」


『あららぁ、こんなにおいしいのに。じゃあ、俺は次の家に行かないとなので。』


「ありがとうねぇ~」


 そう、俺の仕事は生ごみ回収だ。毎朝、生ごみを回収しに村中の家を回るのだ。その後、その生ごみは全て俺のご飯となる。

 この体はゴキブリなので、何を食べても腹を壊す心配はないのだ。

この日は、かなり大量の生ごみを回収できた。


 そして、仕事の後に朝ごはんである。村中の家を回っているため、生ごみの量はかなりの多さなのだが、なぜかペロリと食べることができてしまうのだ。

 まぁ、スタンピードの後の暴飲暴食を考えたら少ない量ではあるが。


(おっ、今日はお肉が多めだな。うまいうまい。)


 仕事が終わり、朝食を食べ終わったら、もう一度寝る。

この時には、鶏どもも少しは落ち着いており、寝ることができるのだ。


 この体は、かなりの頻度で睡眠を必要としているらしい。

4時間程度活動したら、10~20分程度の睡眠時間―――というか、活動休止時間が訪れる。この時、体の動きは極端に鈍くなり、外から受け取る情報も少なくなるのだ。まぁ、瞼が無いので寝ているわけでは無いし、気合で活動することも出来る。



 10分ほど寝たら、ソフィについて行って一緒に“教室”で授業を受ける。

この日は、前日に続いて世界の形の授業だ。

 “教室”では、村にいる聖職者が教えることになっているらしい…と言うことは、ユキの父であるルイスが教えているのかと思いきや、大きな町から来た【創世教】と言う宗教のプリーストが来て講義をしてくれる。


「この世界は、大きな球体と一枚の板で出来ていると言われています。この板が大地で球体の内側が空です。この大地を中心として、球体の内側で光の獣と闇の獣が追いかけ合って、昼と夜ができているのです。」


 見事な天動説である。ヨシ、ここは俺が一発世界の常識を覆してやるとするか。


『先生、それは違います。大地はホントは球体で、その球が回転することで昼と夜ができていて、太陽と月は実は動いてないんです』


「あぁ、ホントは地面が動いている…所謂、地動説と言うヤツですね。ヤマト君は転生者でしたね。多くの転生者は確かに地動説を唱えます。それを立証しようと、何人も空を限界まで飛んだそうです。その結果…」


『ま、まさか、全員…。』


「はい、全員、帰ってきてからは天動説を唱えるようになりました。どうやら、本当に世界はこの形らしいのです。」


『いや、生きてるんかい。』

 おっと、早とちりしていたようだ。てっきり、天動説を推す宗教団体に消されたのかと思っていた。

 と言うか、この世界って天動説で動いてるのね…


「先生!この大地が板だったら、裏があるはずですよね?」


「おっ、ピート君、良いところに気が付きました。そうですね、この大地は板だというのなら、裏があるはずです。この、裏には、皆さんも知っている魔界と言うものがあります。魔界では魔物がとても強く、一流の冒険者でも行きたがる人は少ないそうです。」


『ん…?あれ?行きたがる者は少ないってことは、行く方法があるということですか?』


「はい。ありますよ。一つが、転移魔法ですね。魔界にも座標は存在しているので計算さえできれば行くことは出来ます。その他にも、行く方法があるらしいのですが…おとぎ話のようなもので、成功確率も極めて低いそうなので、あまりお勧めは出来ませんね。」


『へぇ~』


 授業は、午前中の間に終わる。そこから子供たちは自由時間だ。家の手伝いをしたり、遊びまわったりするのだ。

 ちなみに、家の手伝いをする子はほとんどいない。なぜなら、仕事のほとんどを魔法で済ませてしまえるからだ。だから、子供たちはガンズ爺さんの所で剣の練習をしたり、山に入って山菜取りや狩り遊びをしたりする。


 俺は、よくソフィ、ピート、ユキと一緒に山で遊ぶことが多い。冒険者になりたいソフィが、練習だとか言って二人を連れまわす。それに付いて行く感じだ。


 今日は、スタンピードの時に出た大蛇と初めて遭遇した湖に来ていた。

湖は前回来たときのようなパワースポットのような“力”は感じられなかった。

 だが、湖面が陽光を反射してキラキラと輝いている姿は綺麗だった。

それに、どうやら前は全く居なかった魚が泳いでいる。きっと、蛇に脅かされる心配が無くなったので集まって来たのだろう。


 ソフィは服を脱ぎ捨て裸になり、湖を楽しそうに泳いでいた。

「ほら!みんなもおいでよ!気持ちいいよ!」


 季節は夏で、確かに暑くなってきた頃ではある。しかし、思春期であろう女の子が男もいるところで肌をさらすのはいかがなものか…。


「おい…おまえ、チョットは隠すとかしろよ…。俺はパスだ。」


「うーん、水着に着替えてから行くよ~」


 ピートは恥ずかしいのか、湖のまわりの木立の方へと向いている。

うんうん、思春期だもんね。恥ずかしいよね。

 ユキは、なぜか持っていた水着に着替えている途中だ。“教室”から直で来たはずなのに、なんで水着を持っているのか…。


「えー?ピート来ないの?きもちーよ?」


「あのなぁ!お前はちょっとでも恥じらいを持ったらどうなんだ?この野生児が!」


「なによっ!泣き虫のくせに!」


「恥じらいもない野生児よかましだ。」


「何をぉ!?」


 二人はいつもの調子で取っ組み合いのケンカを始めようと…したところでソフィの姿を直視したピートが顔を赤らめて勢いよく森の中へ逃げて行ったので、ソフィの不戦勝となった。


『と言うか、森の中に入って行ったけど大丈夫なのか?』


「うーん…魔物はもういないから…あっ!もしかしたら迷子になってるかも!」


「それは、ソフィちゃんだね…ピートは、方向音痴じゃないし…」


「なによ、アタシが方向音痴だって言いたいの?」


『あっ、俺はピートの所に行ってくるわ。』


 不穏な気配を察して急いでソフィから逃げる。後ろから、ユキの「そうじゃないの!」と言う弁明の声が聞こえてきた。


(許せ、ユキ。俺がピートを守ってやる…!)


 犠牲になったユキへ心の中で謝罪して、ピートを探す。

と言っても、すぐに見つかる。ピートも、本気で見つかりたくないわけじゃないし、むしろ今回は早めに見つけてほしかったようだ。


 …ピートには、昔から不思議と運がいいことが起こるらしい。山の川で遊んでいてうっかり流されても、村のすぐ近くの桟橋に引っかかって助かっていたり。山で遊んでいて上から落石が来ても、他の子にだけ当たってピートは無傷だったり…。なぜか都合よく物事が進むのだ。


 そのため、本気で逃げ隠れされると厄介だ。すごく見つけ辛くなるし、見つけれたとしても様々な妨害によってまた見失ったりする。


「おぅ、ヤマト。お前も来ると思ってたぜ。一緒に湖の向こう側で泳ごう。」


 そう言うと、やや強引に俺の身体を掴んで駆けだした。

ピートの運動神経は非常に良く、動きにくい山林の中でも簡単に進んで行く。

 その途中でも、ピートはソフィの文句をずっと言っていた。


「まったく、なんで男もいるのに脱ぎだすんだ?あいつには、人間として備わっているはずの大事なものが欠けてる気がする…。」


『もしかしたら、知恵の実を食べ損ねたのかもな。』


「知恵の実?」


『あぁ、元の世界の神話にある、人間に考える力を与えた不思議な実のことさ。それを食べた二人は、恥ずかしくてしばらく動けなかったんだと。』


「へぇ、面白い話だな。」


 それから、湖でひたすらプカプカと浮かんでピートと遊んでいると、すっかり日が傾いてしまっていた。


 この世界では昼ご飯の概念は無く、朝と夜の2食なんだそうだ。

まぁ、俺は朝の1食だけだが。


「あっ、そろそろ帰らねぇとな。」


『あぁ。ソフィとユキのところに戻るか。』


こうして、村での一日が終わっていった。




 が、俺は夜行性で、これからが活動本番なのだ。


 夜な夜な、俺は悪ガキ衆と遊んでいる。


 悪ガキ衆とは、モーガンを筆頭とした3人組のことで、モーガン以外の二人の名前は、ボブ、トムと言うらしい。


 この3人は、スタンピード後からバーサーカージジイことガンズ爺さんの所へ通うようになっており、モーガンの贅肉が多くついていた身体は、たったの1年で引き締まり逞しくなっていた。


(恐るべきラ◯ザップ…)


 出会った頃は、あまり仲が良くはなかったが、ソフィが居ないときのモーガンがまともなのと、同年代なこともあって次第に仲良くなっていたのだ。


『お~い!モーガン!』


「おぅ!ヤマトか!今日も外に行くが、付いて行くか?」


 今日は、モーガン一人が村の入り口で立っていた。


『あれ?ボブとトムは?』


「あぁ、あいつらは寝てるぞ。そもそも、今までは無理言って付いて来てもらってただけだしな。」


『そうなのか…まぁ、仕事もあるだろうしな。』


「そういうこった。ま、行こうぜ。」


『おう。』


 モーガンと一緒に、村の外を歩いていく。途中で魔物と遭遇したりするが、それをモーガンは難無く退けていく。この1年でかなり強くなっていた。


『うーん、去年大振りな一撃で俺に避けられていたのとは別人だな。』


「おいおい、それは忘れてくれよ。…っと、捌いたぞ。食ってもいいぜ。」


 モーガンが魔石を取り出し、残りの肉を全部俺にくれる。

そもそも、魔物の肉は人間には毒なので利用価値はない。つまり、俺はちょうどいい処理係と言うわけだ。


 モーガンは今まで倒してきたモンスターの魔石を全部残している。近い将来の為の貯金なんだそうだ。


『おっ、ありがとさん。うーん、魔物の肉はやっぱりちょっと違うな。こっちの方がおいしい気がする。』


「そうなのか?俺は食えねぇから分んねぇが…新鮮だからじゃねぇか?」


『あー、そうかもな。うっし、ごちそうさん。行こうぜ。』


「毎回思うんだが、お前の体のどこにあのサイズの肉が入ったんだ?」


『俺も分からん。』


 そうして二人で村の外の森を歩いていく。しばらく歩くと、荒野のような場所につく。俺たちは毎日そこで遊んだり狩りをしたりしているのだ。


「さぁて、始めるか…。」


 モーガンは、背中に背負っていた剣を抜くと、構えてから振り始めた。準備運動代わりに、剣を振るのだ。

 その動きは、単なる型ではなく獲物となる生物との戦いを想定した動きである。

時に堅実に、時に攻撃的と言う変則的なその剣はどのような相手でも戦える実力があると感じられた。


「ふぅ…。なぁ、ヤマトも剣の練習してみないか?」


 一通りの準備運動の後、モーガンはいつものごとく俺に尋ねる。


『いや、遠慮しておくわ。そもそも、持てもしない剣の稽古なんてしても意味ないし。』


「はははっ!違いないな。さて…と、やりますか。今日こそは一発当てる!」


『おう、掛かってこいや!』


 そう言うと、モーガンは剣を俺に向けて、構える。

そして、コンパクトに縦に振った。最初の様に、スキルを使った大振りの隙だらけの攻撃とは違う、洗練された縦振りである。


 それを、俺は生まれついてのスピードで難無く躱す。


 しかし、モーガンもそれを読んでおり、既にこちらに向かって剣が振られていた。

 それを、羽をはばたかせて強引に飛翔し回避し、モーガンの剣の間合いの外へと逃げる。そして、全速力でもってモーガンへと突撃した。


 だが、それすらも読んでいたモーガンによって、剣の腹で簡単に防がれてしまった。


 それから、手に汗握るギリギリの攻防はモーガンが疲れてぶっ倒れるまで続いた。


「フゥ―――…。やっぱ当たらないなぁ…。」


『当たりめぇだ。当たったら死んじまうからな。こっちも必死なんだよ。』


「かなり、頑張ったんだけどなぁ…」


『それは俺も知ってるよ。毎日毎日…良くも飽きずに頑張ったよなぁ…。』


「まぁ…ソフィに振り向いてもらうために…な。そのためには、ソフィの目標の冒険者になって、大成功しなきゃならないんだよ。」


 モーガンは、ソフィの気を引くために冒険者になることを決意したのだ。

ただ、ソフィの気を引くためだけが動機なわけでは無く、スタンピードで魔獣たちを倒す大人がカッコよかったからと言う理由もあるらしい。

 あの日、モーガンもコッソリ避難所を抜け出して、戦いを観戦していたのだ。


『好きな子の為なら、何だってできるってか?かぁー!若いねぇ!』


「お前も同い年だって言ってただろ。」


『ちょっ、やめろって』


 笑いながら、モーガンが突いてくる。それに笑いながら返し、しばらくじゃれ合っていた。


 そして、ふと、

『寂しくなるな…。お前が居なくなると。』

 なんて、感傷的なことを呟いてしまった。


 まさか、俺がそんなことを言うとは思ってもいなかったのか、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしながら、


「お前…そんな風に思ってくれてたのか?」


 と聞いてきた。


『あぁ、ボブもトムも村に残るけど、悪ガキ衆はお前がいないとな…。まぁ、夢の為に頑張れ!』


 そう、モーガンは明日には、冒険者になるためにこの村を出るのだ。

なので、このように夜に遊ぶのも今日が最後なのである。


最初、13歳で成人を迎えた時は、父の跡を継ぐ兄の下で働こうと考えていたらしい。

 しかし、あの日…俺とモーガンが出会った日に、冒険者になると決意した。


 下手に街に出て剣術道場に通うより、ガンズ爺さんに教わった方が遥かに良いため、村に残っていたのだが、ガンズ爺さんに『もう教えることは無い。』と言われ、村を出ることにしたのだという。


「はははっ!まさか、お前にそんな言葉をかけてもらえるとはな。でも、お前はソフィと一緒にいるんだろ?なら、すぐに会えると思うぞ。」


 いたずらっぽく笑って、モーガンが言ってくる。


『ま、そうだな。ソフィも来年には13…その後2年村にいるとしても、3年だ。あいつのことだから、13でそのまま飛び出してきそうだけどな。』


「ありえるな。ま、その時は一緒にいるんだろ?」


『ま、そうなるだろうなぁ…。冒険者やってりゃ、会うこともあるか。』


「そうそう。それに、たまには村にも帰るつもりだしな。」


『そうか…』


 モーガンと話していると、いつの間にか東の空が明るくなってきていた。

どうやら、かなり長い間戦っていたらしい。

 遠くから、鶏が朝を知らせる為に叫んでいるのが響いてきた。遠くから聞く分には綺麗な声だ。


(と言うか、村からかなり離れてるのにここまで聞こえるのか…。そして、それを俺は毎朝至近距離で聞かされていたのか…。)


「もう朝…か。」


『おう、お別れだな。俺は仕事もあるし見送りには行けねぇかもしれないが…まぁ、元気でやれよ。』


「おう!」


 そして、俺たちは分かれた。

俺はいつも通り仕事をして、それから寝た。いつもなら起きているが、無理をして夜通しモーガンといたので、限界を迎えたのだ。


 眠りから覚めると、既にモーガンは村から出て言った後だった。

俺が寝るたった10分も待てないとは…せっかちな奴だ。


 ソフィは、清々したという顔でモーガンが村から出て行ったことを喜んでいた。


 こうして、少しずつ変化しながらも、村の日常はのんびりと続いていく。

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