2年後
第21話
スタンピード発生から2年が経ち、ソフィたちは13歳の成人式を迎えた。
この世界では、成人は13歳からと決められており、13歳になるとギフトが授けられる。
ギフトとは、13歳の誕生日に授かる、その人の個性を反映した能力のことだ。それは、スキルや職業――稀に武器などの道具と、様々な形で授かり、ギフト次第でその後の人生を大きく左右するという。
ギフトの希少度は、スキル<
成人式は、貰ったギフトを確認する行事で、戸籍帳簿に名前とギフト名が明記されることとなる。
戸籍帳簿に名前が載ると、晴れて大人の仲間入りだ。その行動すべてに責任が問われるようになり、何をするにしても自己責任が基本となる。
これから成人を告げられる子供たちは皆、緊張と期待が入り混じった表情で、式場へと入場していく。
成人式は、最寄りの大きな都市で参加することになっており、ソフィたちはランミョーンの街へと訪れていた。
年に一度の成人式と言うこともあって、ランミョーンの街は活気づいており屋台なども多く開かれ、何とも食欲をそそる匂いが通りを埋め尽くしていた。
「わぁぁぁ!見てみて!いっぱい屋台があるよ!食べていこーよ!」
「おい!待てって!おじさんとおばさんに無駄遣いするなって言われただろうが!」
「そうだよ~。それに、早く行かないと成人式に遅れちゃうよ~」
成人式を見るために、親たちも村からやって来てはいるものの、父兄観覧席は子供たちの入場口とは真逆の位置にあるので、一旦別行動をしているのだった。
成人式は、ランミョーンの街の国営闘技場で行われることとなっていた。なぜ闘技場なのかと言うと、総勢3000人を超える人数を収容できる場所が他になかったからだとか。
『はぁ…ソフィ、後で一緒に行こう。でも、成人式が先だ。』
そして、ヤマトはソフィの服のポケットの中にこっそりと入っているのだった。
ソフィがどうしても「ヤマトと一緒じゃないとイヤ!」と言う風に駄々をこねたのだ。
「む~…わかったよ。絶対にだよ!」
『あーはいはい。絶対にね。』
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さて、ここでなぜヤマトが死んでいないか疑問に思っている人がいるかもしれないので解説を挟もう。(疑問に思わなかった人はスルー。読まなくてもいい。)
ここでは、ヤマトに見た目の近いクロゴ◯ブリと名前が似ているヤマトゴ◯ブリについての話だ。クロゴ◯ブリの平均寿命は2年で、そのうち成虫でいる期間は7か月程度だ。ヤマトゴ◯ブリの平均寿命は2年半とされており、そのうちでも成虫期間は3か月~半年と短い。
ヤマトは既に成虫になっており、既に寿命が来ていなければおかしいはずなのだ。
しかし、よく思い出してほしい。ヤマトは一度、およそ3メートルサイズにまで大きくなっていたのだ。今でこそ5センチ程度のやや大物サイズに縮んでしまってはいるが、紛れもない巨大種である。
最大と言われるヨロイモグラゴ◯ブリですら、せいぜい80㎜程度の大きさだ。そのヨロイモグラゴ◯ブリが個体にもよるが、平均7年は生きる。約10年生きた個体も居るそうだ。
それならば、およそ3メートルオーバーのヤマトも、2年後の今生存していてもおかしくないわけである。
まぁ、異世界は凄いって思っておけばだいたい間違いない。
以上、どうでもいい(D)長い(N)注釈(T)のコーナーでした。またやるかどうかは知らん。
それでは、本編をお楽しみください。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そうこうしているうちに、成人式会場となる闘技場の選手控室のような場所で待機させられていた。
控室には、大きな棚が壁一面に設置されており、白い布で覆い隠されている。中には多種多様な武器や防具が並べられており、ここで戦いの準備をしているのだと、いやにリアルに感じさせられた。刃物はよく研ぎ磨かれており、鈍器はピカピカに磨かれているものの、血と思わしき黒いシミがはっきりと残っていた。
(これは、
『おーい!ソフィ!落としていかないでくれ!』
「あ!ごめんヤマト!うっかりしてたみたい。」
『ほんとに注意してくれよ?人が多いから、うっかりすると踏みつぶされちまう。〈バカでよかった〉』
「ん?ヤマトなんか言った?」
『いや、そのまま大きくなってくれって言っただけ。』
「?」
ソフィの頭に大きな
「もうっ!ソフィちゃん!どこ行ってたの?」
「えへへ、ゴメンユキちゃん。うっかりヤマトを落っことしちゃってて…」
「まったく…13になってもソフィのおっちょこちょいは治らねぇな。」
「うるさいピート!あんたも泣き虫なままでしょうが。」
「「この野郎!」」
二人はお互いに飛びついて取っ組み合いのケンカを始めようとする。
〈あっ、この流れは不味い…〉
危機を感じて、スルスルとソフィから下り、急いでユキの肩辺りに飛び乗る。
「ソフィちゃん、ピート君。」
二人がビクッっと肩を跳ねさせる。どうやら、またユキを怒らせていたのだと、ようやく気付いたようだ。
ユキは友人同士のケンカを許せない性質らしく、ソフィとピートは、この2年間、しょっちゅうケンカしてはユキを怒らせていたのだ。
ユキの怒り方はとても静かで、それ故に怖い。顔も整っているため、妙な迫力があるのだ。2年前にすでに怖かったが、それがさらに
(君子危うきに近寄らず。逃げの姿勢が大事なのだよ。)
「ソフィちゃん。私言ったよね?13歳になったらもう一人前なんだから、女の子らしくケンカなんてしちゃダメって。言ったよね?」
「・・・」
「言ったよね?」
「はいっ!言いました!」
「だよね?なんですぐに破っちゃうの?もしかして、ソフィちゃんにとって私との約束なんてすぐ破っちゃうようなどうでもいいことだったの?」
感情をほとんど込めず、
「ピート君もだよ?もう男の子と女の子で力の差があるんだから、ソフィちゃんとケンカしたらダメだって、言ったよね?」
「はい…。」
「じゃあ、なんでケンカしちゃったの?ソフィちゃんが怪我しちゃってもいいって言うの?」
「ううん…」
「そうだよね?じゃあ、なんでケンカなんか始めちゃったの?」
「それは!ソフィが俺のことを…」
「ソフィちゃんが言う前に、ピート君も言ってたよね?お相子じゃないのかな?」
「うぐっ…」
責められてしょんぼりとするピート。すると、今度はソフィがその様子を俯きながらニヤニヤとチラ見している。
〈全く反省してねぇなこいつら…。はぁ、進歩のねぇ奴らだ。〉
『ほいほい、ユキ、そこまでにしようか。ソフィもピートも反省してるみたいだし。そもそも、喧嘩するほど仲がいいって言うだろ?ほら、そろそろ成人式が始まるんじゃないのか?』
〈ふっ、決まったな。
自分が勝手に抜け出して散策していたせいで勃発したケンカだというのに、そのことは棚に上げてユキをなだめようとした。
「ヤマト君も悪いんだよ?何、一人だけ関係ないみたいなカンジで止めようとしてるの?そもそも、ヤマト君がソフィちゃんからはぐれなければ、こんなケンカは起きなかったかもしれないんだよ?」
が、効果は全くなく、むしろ余計なことを言って矛先がヤマトの方へ向かうだけだった。
〈おっと、完全なるとばっちりですね。そもそも、この二人は俺が逃げてなくてもケンカしてたよ…。〉
「ここは人が多いし、ソフィちゃんとはぐれたらもう二度と会えなくなるかもしれないんだよ?わかってるの?」
『ハイ。ハンセイシテオリマス』
ヤマトたちは、全く反省のしていない棒読みの謝罪でひたすらユキに謝っていく。
この後、何時間にも感じられる数分間が過ぎていき、何とかユキをなだめることには成功したのだった。
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