第6話

 確かに、こんな強い酸性雨が降りしきる中では探すのも至難の業だろう。先程の教師もカッパや傘などで防いでいたが、雨でボロボロになったり穴が出来たりしていた。

「意外と落ち着いているようだねぇ。みんな聞いている途中で泣き出したり発狂……とまではいかないけどキャパシティオーバーする人が結構いたんだけど……。」

 だからなだめ役みたいなこともしてたんだよね、とその子は苦笑する。

「うん。自分でも不思議なくらい今を受け入れられてる気がする。」

 ここに着くまでは、混乱していたはずなのに。本当に自分でも驚くほどに落ち着いている。いや、むしろ少しばかり安堵しているように思えた。まるで、今まで抱えていたモヤモヤした何かが無くなったかのような、そう思えるほどであった。

「まぁでも、どうしてこうなったのかとか分からないことだらけだからこれ以上はもう説明することはないかな。」

「うん。ありがとう。」

「どういたしまして。じゃあ、私は他の人とか見てくるから、もう行くね。」

 そう言って彼女は雑踏の中に入っていった。

 その後は、特に何をするでもなくただただ物思いに耽っていた。途中で携帯を取り出してみたが『圏外』と表示されるだけで使えそうもなかった。特に何もなく時間だげが無情にも過ぎていき、気がつけば次の日の朝になっていた。私はその時思った。思ってしまった。

(何て清々しいのだろう。今までにない最高の朝ではないのか。)

 多分私は誰かに壊してほしかったのだろう。世界を。残念を。くだらないと思っていた世の中を。退屈だと感じていた平和な日常を。全てを。自分では到底壊せはしないと分かっていたから。力がないと知っていたからこそ誰かに壊してほしかったのだろう。待ち望んでいたのだろう、この非日常を。

「……ふ。ふふ。あはははは!」

 込み上げてくる笑い声を、私はおさえることが出来なかった。高揚が。快感が。とどまることを知らずに溢れてくる。

「あははははははは!」

 笑いすぎたからなのだろう。視界が涙で歪んでいる。視界が暗転してきているのは笑いすぎて疲れたのだろう、きっと。私はそこで意識を手放した。

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