第4話

「こっちに1人いる。」

「大丈夫か、怪我はないか?」

 どうやら声は教師のものらしい。あまり話したことはないが、顔は知っていた。

「あっ……。怪我はないです。それより、一体何が起こって……」

「その説明は後だ。とりあえずこっち来い。」

 その時になって私はようやく雨が降っていることに気がついた。

「雨……?」

「あぁ、溶けるぞ。」

「えっ。」

「酸性雨だ。とても強いな。すぐに、という訳ではないがしばらくそのままあたってたら溶ける。」

 私の場合、上に1人が覆いかぶさるような形で倒れていたから無事だったようだ。言われてみれば確かに、雨にあたったところが少しヒリヒリと痛む。

 と、同時に気付く。『暑さすぎて溶ける』と言った彼女に対し私は――

 パッと彼女の方を振り返る。別に姿が見たかった訳じゃない。反射的、というところだ。

 ――勝手に溶けとけば。

 しばらくあたっていたのだろう。彼女は溶け始めていた。そう、私の言葉通りに……。友達の戯れの一環だった。ほんの冗談のつもりだったのに。誰がこんなことを予想出来ただろう。さっきまで気付かなかったのは混乱していたからなのだ、きっと。決して現実から目を背けたかったわけでは……。

「何してる。行くぞ。」

 教師が声をかけてくれて本当に助かった。そうじゃなければ、私は膨れ上がった罪悪感で押し潰されていただろう。まぁ、罪悪感があることに変わりはないのだが。それに、よく分からない得たいの知れないが私の中でくすぶっているような感覚も微妙にあった。何かは、まだ分からないけれど……。

「はい……。」

 先を歩いている教師の後を慌てて追いかける。私達の間に会話はなかった。こんな状況下で笑顔で会話なんかしたらそれこそ鬼とか人の皮を被った悪魔なんだろうな、とぼんやり考える。

 そうして歩いているうちに目的地に着いたようだった。

「着いたぞ。」

 そこは奇跡的にも比較的崩れていないようだった。どうやらそこに生きている人が集まっているようだった。

「とりあえずはここにいろ。他の場所に比べてまだ安全だからな。俺はまだやることがあるから詳しいことは周りの奴らからでも聞いてくれ。」

 じゃあな、と言い残して教師は雨の中へと出ていった。

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