第19話〜圧倒的な勝ちでボキボキの心

「そなたアツシペアVSエリンりりかペア、ザベスト3セットマッチ、エリンサービストゥープレイ。試合を始めまーす!」


くみ先輩が審判として仕切った。あれ?じゃんけんしてボールをどっちが打つとかやらないのかな?勝手に決めていいのか…


僕が思っていた疑問は伊沢部長が聞いてくれた、ありがとう。先輩に質問するとかハードル高い。


「いいんですか?ラケット回ししなくて。」

「そっちが先にやっちゃって〜ハンデみたいなもんだから〜。」


ハンデって、僕みたいな初心者がいるのに?まるでこっちが圧倒的に有利みたいじゃないですか。意図が掴めない。


「じゃ、先に打たせて…貰うわよ!」


エリンがサーブを打った。その球は早くて僕は目で追うだけで精一杯だったけど真坂さんはリターンして返した。す、すごいや。


「遅い。」

「ふん、腕はなまってないみたいね。」


真坂さんが打った球も早いけどエリンが打ったのとは、全く早さが違う。そしてエリンではなく、伊沢部長が取りに行った。


「伊沢部長!」

「おりゃっ!」


温厚だと思ってたけどテニスになると、熱血むき出しで返した。僕の所にきたけど取れなかった、ギリギリの所に落ちるも真坂さんが拾った。


「ごめんね真坂さん!」

「ちっ、そこならいけると思いましたが。」

「そんなフォローして余裕かましてるつもり?てやっ!」


え、今舌打ちした?この伊沢部長。気のせいだと思いたい。エリンは強烈なボレーを打った、音からでもわかる通り、だいぶ重たい球で真坂さんはこれを打ち返す事が出来るのか。


そんな心配はいらなかった。


真坂さんのおぞましい程の強さを僕は知った。彼女は1人でほぼ全ての球を返して得点を取っていった。


なのに汗ひとつもかいていない。相手側は息も上がって体力の限界を迎えているのにも関わらず。


「あんなに大口叩いてたのにね。これぐらいで終わりなの?後1ポイント取れば勝ちよ。」

「くっ…はぁ…はぁ…何故。」


エリンはもう立つのもやっとなぐらい疲れている。そして審判のくみ先輩が言った。


「そなたアツシペアは1セット取ってあと1ゲームで40フォーティ0ラブ。これは不味いんじゃないの?埼玉の未知葉みちは高校の部長さん。」

「異名で読んだ方がよかったよね〜「泥の伏兵」だっけ。」


その「泥の伏兵」という異名が伊沢部長の逆鱗に触れたようだ、くみ先輩を睨んでいる。


「はぁ…はぁ…そりゃあどうもですよ、帝大王みかどおおきみ高校の「女帝エンプレス。」


こんなに他校の部長同士が睨み合っているのに、観客席にいる小学生達はキャッキャとしていた。


「何かここ見たことある〜!」

「アニメ漫画なんかでよくあるやつじゃん!」

「泥の伏兵といい女帝エンプレスといい誰が考えているんだ?」


ヨウは試合を見ながらその異名というのを誰が考えたのか気になった、そしてシンタは真坂さんとエリンを指さした。


「あのぺったんこの2人やつは?」

「あっちの髪が長い方は和の姫様だったような気がする。」

「おれ女帝エンプレスのお姉さんがいいです。」

「え〜ありがとうね嬉しい♡」


ルスタロウは完全にくみ先輩に惚れている。対して指をさされたエリンはシンタの悪口に言い返す。


「おいクソガキ!誰がべったんこよ!アタシの異名は「死神」なのよ!」

「テスノートじゃん、ルーク?」

「でもアイツルークにしてはガリガリじゃないぞ、胸以外。」


その言葉に腹が立ったエリンは試合より小学生との言い合いに集中してしまった。そのせいで、1ポイントを取られた。


「外野は黙っとれ!って。」

「よそ見をしないで、今あなたは勝負をしているのよ。そんな覚悟でいるからあなたはいつまで経っても私には勝てない。」

「ゲームセット!マッチウォンバイ、そなたアツシペア2ゲームセットトュー0お疲れ様〜!」


真坂さんの目は狼みたいだった。目の前にいる試合にも勝負にも集中しない者を勝敗で、叩き切ってしまった。


僕はそのセリフのかっこよさに痺れて真坂さんに言いよった。勝ちに全く貢献していないけど自分のペアが勝ったから!嬉しくなって思わず沢山喋った。


「あ、圧勝だったね真坂さん。すごいなぁ、ほぼ全部のボールを1人で拾ってたのに息切れひとつもないや。どうやったらそんな体力がつくんじゃ?」

「あなた…そんなに饒舌じょうぜつに話してたかしら。」


真坂さんは困惑していた。


「えっ、嫌だった…?」

「いえそっちの方が…何でもないわ。それよりお疲れ様、目の前の事に集中してよく頑張ったわね。」

(今までは目が隠れてたのに今は汗で髪が細くなったから見えてるわ…)


また「何でもない」だ、多分すごく言いづらい事があるんだろう。でも褒められたのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいや、ひたすらボールを追ってただけだし。


そしてエリンは四つん這いになって、地面に自分の思いを叫んでいた。


「平山エリン!まだまだ練習が足りないというの?!」

「アイツエリンギって言うらしいぜ。」

「どこもエリンギ要素ねーじゃん。」


だが、そんな様子でも小学生はイジる。

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