第33話「ちょっとだけ変化した日々」
魔境調査隊を救出してから、私の日常は少し変化した。
ちょっと強引に参加した救助作戦の最中で、私とトラヤが活躍したと見なされたようで、結果的に冒険者組合の中で顔が売れてしまった。
おかげで組合の人や冒険者個人が工房に来たり、出先で話しかけてきたりと大変だった。最初は依頼として受けようかと思ったけれど、私はまだまだ修行中の身だ。それに、個人で受けるには多すぎる仕事量なのも問題だった。
そもそも、現状のフェニアさんの店への納品とたまに受ける組合からの依頼だけでもそれなりに忙しいのだ。
さすがにまずいと思ったので、先日知り合った組合長さんに相談し、私への直接依頼は控えて貰うよう組合側で対応してもらうことにした。組合側で私に依頼すべきと判断されたら話を通される形だ。
駆け出し錬金術師にしては偉そうなことをしているとは思うけれど、半日で十人以上の来客が三日続いたところで私には無理だと悟った。個人依頼を受けている人気の錬金術工房を聞いたことがあるけれど、本当に凄いと思う。
「ようやく少し落ち着いたわね。商売繁盛は良いことだけれど限度がある……」
セラさん達を救助してから十日、昼食を終えた私とトラヤはのんびりとした時間を楽しんでいた。
「あはは。たしかに、依頼内容も『一緒に魔境に出かけてくれ』みたいのが多かったし、イルマ向きじゃないよね」
そうなのだ。私の所に来た冒険者達の半分くらいは一緒に魔境に出かけて欲しいという勧誘に近いものだった。どうも、合成魔獣を退治したときの話が伝わり、武闘派の錬金術師だと認識されてしまったらしい。
「心外だわ……。私は製造が専門で、戦うのは採取のついでなのに」
「ついでにしては持ってる錬金具の威力が強すぎるからだと思うけど」
「だって、強い方が楽だし安全じゃない」
「……たしかに、あたしは頼りになるから助かってるよ」
なんか諭すような口調なのが気になったけど、気にしないことにしよう。
「まあ、採取に出る以上それなりに戦えなきゃって、ハンナ教室では鍛えられるしね」
ハンナ先生はああ見えて魔境を探索したりもする武闘派錬金術師だ。生徒もよく採取に連れ出されるので自然と強くなる。
「私のことはいいわよ。元の生活が戻ってきたし。トラヤはどうなの? セラさん達と出かけてるけど」
「うん。楽しくやってるよー。お金もいいしねっ」
生活に変化があったのは私だけじゃない。
あの救出作戦で魔法使いの力を認知されたトラヤも冒険者組合で一気に注目された。こちらも色々あって今はセラさんのいる魔境調査隊に定期的に同行するのが仕事の中心になっている。
今後、私と採取に行かない日は組合で調査隊の人達と行動することになるだろう。
私と一緒にいると工房に籠もってばかりになってしまうから、これはトラヤの修行になっていいんじゃないかと勝手に思っていたりする。
「イルマ、午後はリベッタさんのところで修行?」
「修行というか、現状報告ね。属性を扱うのも慣れてきたし、新しいレシピについて話し合う予定」
「順調だねぇ。属性を扱えるようになってそんなに経ってないのに、どんどん進んでる気がする」
「一応、一級錬金術師だからね。錬金術自体はそれなりにできるもの」
特級錬金術師になり、属性を扱えるようになるとできることが一気に増える。
後は慣れの問題で、ここまで真面目に研鑽を積んだ錬金術師なら、基本的なレシピに属性付与が追加された程度のものなら結構楽にできてしまうのだ。
「用意されたレシピのものなら大抵のことはできると思うのよ。問題はオリジナルね。多分、凄く難しいと思う」
すでに存在するレシピと違い、一から属性付与のレシピを作るのは難しい。非常に繊細な操作を伴い、安全な構成を見つけるのが難しいからだ。前に作った『無の爆裂球』はラッキーに近い。私にしか使えないけど。
私が技術的な壁にぶつかるとしたら、自分のレシピを作りたいと思った時や、大幅なアレンジを加えた時になるだろう。それまでは用意されたレシピで鍛錬を重ねて慣れておこうと思っている。
「なるほどねぇ。わたしもできるだけ協力するから、その時は言ってね」
「うん。そうする。それで、これからセラさんが来るんだよね?」
「そう。調査のことイルマにも聞いて欲しいって。相談もあるって言ってたよ」
セラさんは救助の後も私達のことを気にかけてくれていて、こうして訪れては話をしてくれる。情報はとても大切なので有り難い。
「ちなみに、どんな相談かわかる?」
「んー。多分、ドラゴンについてじゃないかなぁ」
結局、武闘派寄りの話になるのね。
トラヤの言葉を聞いて私はこっそりため息をつくのだった。
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