第11話「お金がほしい」
ルトゥールの町にやって来て、あっという間に十日が過ぎた。
動き出した日々は忙しい。『錬金術の塔』から送られた荷物の開梱と整理、それとフェニアさんの店からの受注への対応。さらにはリベッタさんと相談しつつ属性錬金術の練習とやることがいっぱいある。
早々に仕事が出来たのは幸いだったと思う。おかげで今後のこととか考えずに動き続けられた。
十日かけて、どうにか引っ越し荷物が片付いて、工房内を人に見せても良いくらいの状態になった頃には色々と今後の課題が見えてきていた。
まずは、お金が欲しい。
フェニアさんの店は思った以上に繁盛している。朝と夕方に冒険者(何故か女性が多い)がやってきて色々と錬金具を買い込んでいくのを見かけたし、近隣の人々も頼りにしている。
当然、私にもそれなりの受注は来る。……来るのだが、単価が今一つなのである。
フェニアさんの店の売れ筋商品は錬金具としては一般的で安価なものが多かった。
まだ認定はされていないけれど、特級錬金術師として色々やりたいことがある私にはお金が必要だ。錬金術の素材は良いものほど高い。それと、研究用の錬金具や機材も高い。
今の収入だと食べていくくらいはできそうだけれど、錬金術の研究に没頭するには程遠い。フェニアさんの店で相談がてらそんなことを話したら、思わぬ提案をされた。
「じゃあ、ちょっと良いポーションとかもお願いしてもいいかな」
現在、私がフェニアさんの店に卸しているのは最も簡単な癒しのポーションだ。これは小さな傷を治したり、ちょっと元気が出るくらいの効果しかなく、安いのが一番の利点の錬金具である。
フェニアさんが要望して来たポーションは複数有り、中には冒険者が採取の中で大怪我をした時のために備えておくようなものもあった。
「実はね、そろそろその手のポーションの需要が増える時期なのよ。できるわよね?」
フェニアさんは今のところ私を普通の一級錬金術師だと思っている。そして、要望されたポーション類は一級でも十分作れるものだ。
「素材があればできますけれど……」
問題はそこである。良い錬金具は良い素材を必要とする。そして、良い素材は高い。
今の私にそこまでの持ち合わせはない。
これはリベッタさんに相談して、素材かお金を借りるなりするか。
一瞬そう考えたが、別の手段があることを思いついた。
「フェニアさん。この町の冒険者組合の場所を教えてください」
錬金術師自ら冒険者として登録し、採取を行う。
駆け出し錬金術師によく見られる光景だ。
○○○
錬金術師が冒険者として活動することは結構なメリットがある。
冒険者を統括管理する冒険者組合は周辺の採取可能な場所の情報を握っており、その最新情報を得ることができる。
また、錬金都市においては都市機能を点検する仕事などの一部が、冒険者組合所属の錬金術師に回されている。
更にいうと冒険者としての顔が売れていれば、希少な素材を採取に行く際同行者を得やすくもなる。
つまり、『錬金術の塔』で働いていて、素材は手配すれば手に入る環境にでも無い限りは冒険者として登録しておくのは全然ありということだ。
ちなみに、フェニアさん情報によると、ルトゥールの町の冒険者組合は酒場が併設されており、料理がとても美味しいとのこと。これもまた有り難い。
そんなわけで、私は町の中央からちょっと外れた場所にある冒険者組合にやってきた。
緑の屋根に白い壁の木組みの大きな建物。一見すると宿屋にでも見えそうなのがルトゥールの冒険者組合だった。入り口には剣と地図が現された看板、間違いない。
扉を開け、中に入ると内部は騒がしくない程度の活気があった。
受付の窓口は四つ。混み具合はほどほどだ。冒険者の多くは日中は仕事に出ているからだろう。
てくてくと受付に向かって歩く私の方を何人かがちらりと見たがすぐに興味を失ったようだ。視線を送ったら凄い勢いで顔とか逸らされた。
なんとなく空いていた女性職員さんの窓口に立って言う。
「すいません。この町に来たばかりの錬金術師なんですけれど。冒険者登録をお願いできますか?」
眼鏡をかけたいかにも『受付のお姉さん』といった人はにこやかに答えた。
「ああ、フェニアちゃんが言ってた子ね。聞いたとおりの見た目だからすぐわかったわ!」
「はい? どういうことですか?」
わけがわからず問いかけると、お姉さんは楽しそうに語る。
「あの子、店に来た冒険者にあなたのこと話しまくってるのよ。それで、『可愛いからって下手な手出ししたら災いを振りかける』って、脅してたみたい」
災いとは一体……。
「えぇ、大丈夫なんですか、それ?」
「大丈夫よ。可愛い子を見つけたフェニアちゃんの通常営業だから」
それは通常では無いと思う。
この件についてはそのうち詳しく聞くとしよう。もしかしたら私を守るために手回ししてくれたかもしれないけど。いや、周りから変な子だと思われてそうで不安だ。
「あの、冒険者登録はできますか? 一応、一級錬金術師なんですけど」
服の中から一級錬金術師の証拠である銀色の飾りを出して見せると、お姉さんは満足そうに頷いた。
「もちろん。実はね、リベッタさんからも貴方の話は聞いてるの。来たらすぐに登録するようにってね」
なんと。まさか、周りの人達が先に話を通してくれてるなんて。
「これ、後でお礼を言わないとですね」
「リベッタさんはともかく、フェニアちゃんは気を付けてね。変わった服とか着せられるから」
「フェニアさん、どんな人なんですか……」
受付のお姉さんの言葉にちょっと不安を覚えつつも、私はこの町に来て、できたばかりの友人と師匠に深く感謝した。
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