第4話 頼れる兄貴

「ゔー」


 俺は、窓際の1番後ろの皆が羨ましがる席に座って1人で唸っていた。


 ああああ!やっちまっあああああ。昨日、柊を文化祭に誘っちまったぁああ。な、なんか勢いで?みたいな?まさか、オッケーを貰えるとは!


「朝からどうしたよ、楠」


「高木ぃ」


 今、話しかけてきたのは俺の友人の1人の高木晴たかぎはるだ。コイツは兄貴肌で面倒見が良い。勉強ができ、柊に次いで学年2位だ。運動神経もよくサッカー部ではキャプテンを務めている。その上、イケメンとくる。女子から大人気の男だ。モテモテでしょっちゅう呼び出されたりラブレターを貰ったりしている。でもそのことを一切誇らない為、男子からも人気だ。つまりコイツは完璧超人パーフェクトボーイなのだ。そんな神のような存在が俺なんかと仲が良いのは不思議だが。


「昨日さぁ…」


 俺は昨日起こった出来事を一通り高木に話した。コイツはいつも正しい答えをくれる。相談役としてはピッタリだ。前にも義妹のことで相談して、高木のアドバイス通りにしたら上手くいったことがある。本当にコイツが友達で良かったと思う。


「ふっははははは」


「お、おいっ。何笑ってんだよ。俺は真面目に話してんだよっ」


「悪りぃ悪りぃ。そうかぁ、やっとかお前ら。まぁさぞかし志乃も嬉しかっただろうな」


「どういう意味だよ」


「いや、何でもねーよ。ま、頑張れよっ」


「ええ。……ん?ちょっと待て。お前今、柊のこと呼び捨てにしなかったか?」


「あっやべ」


 おいっ!やべってなんだよ!なんだよ、マズイ関係なのかよ。も、ももしかしてコイツ、柊の彼氏…なのか?こっそり付き合ってたとかなのか…?


「おい、どういう関係だよ」


「あー、どういう関係って幼馴染だよ。ただの幼馴染」


「本当だな?」


「本当だよ。そんな怖い顔すんなって」


「まあ、良い。お前のことを信じるぞ」


「はいはい」


 幼馴染…幼馴染…あっ、幼馴染といえば叶は?叶も幼馴染って言ってなかったか?


「叶は?叶も幼馴染だよな?」


「あ、ああ。美沙な」


「も、もしかしてお前は叶とそういう…?」


「なんでそうなんだよっ!美沙は従兄弟だ」


「えっマジでー!?」


 ガタン、と音がして椅子が倒れた。クラス中の視線を集めてしまい、俺は少し恥ずかしくなっていそいそと椅子に座った。


「え、初耳だぞっ!?」


「言ったわ。お前が聞いてなかっただけだろ」


 あー、なんとなく言ってたような気がする…もう全然その時のこと思い出せないけど。まあ、その時は柊への恋心が芽生えたばっかりで柊のことばっかり考えてたからなぁ


「あと言っとくがな、俺には彼女がいるんだ。だから誰ともお前が思うような関係にはならねえよ」


「は!?か、彼女?」


 俺は立ち上がって机を叩いた。またもや椅子を倒してしまい、クラス中の視線を集めた。


「お前なぁ。うるさすぎ」


「だ、だってよ。き、聞いてねーぞ」


「あれ、言ってなかったっけ?」


「聞いてないわ。で、誰なんだよ彼女」


「1組の上田うえだあおい


「あの!?あの上田さん?」


「そうだよ。なんだよ」


「い、いやお似合いだなーと思って」


 高木の彼女である上田葵は、高木と同じく完璧超人パーフェクトガールだ。勉強も出来るし運動も出来る。そして、彼女は女子中高生向けの雑誌、SWEETで読者モデルをやっている。街でスカウトされたと聞いたことがある。学校では柊と沙代と共に3大美少女と呼ばれている。まあ、でも上田さんに釣り合う男といえば高木ぐらいだろう。ていうか俺は高木以外に知らん。あ、忘れてた。俺にとって一番大事な情報。上田さんは柊の大親友だ。……それにしても俺の周り、何でも出来る人が多すぎないか?


「でも他のやつにいうなよ」


「ああ分かってるよ。大変だなぁ、有名人と付き合うのは」


「まあな。でも大切にするつもりだ」


「そうかい。でも上田さんに釣り合う男って言えばお前ぐらいだしなぁ」


「そうか?でもありがと。それにお前だってイケメンだし運動神経良いし、イケると思うぞ?あ、あおは駄目だぞ」


「はぁ。俺は運動は出来ても勉強ができねーからな。お前には程遠いわ。それに俺には柊という想い人がいるんだっ」


「そうだったな」


「でも反対する人なんていないんじゃね?」


「まあ、そうだとは思うけど」


 それから高木と色々話をしていると、あっという間に時間が経った。高木は、HRの先生が入ってきたときに自分の席に戻っていった。


 はぁ。今日は柊休みかぁ。でもなんかちょっとホッとしたかも。どうやって顔合わせれば良いか分かんないし。いや、やっぱり残念!柊と話したかったなぁ。よしっ帰ったらLINEするか。まあいいや、今は授業に集中だ。


 授業が始まってから10分くらい経ったころ、柊がやってきた。


「遅れてすみませぇん!」


「柊、10分も遅刻だぞ」


 柊は走ってきたらしく、いつも綺麗で艶のある髪はボサボサになっていた。チッ、10分くらい良いじゃないか。許してやれよ。


「うわぁ、やばいやばい。一限、古典だったかぁ」


 柊、古典苦手なのか?それにしてもなんか今日は一段と可愛く見える!昨日のことがあったからか?


「柊、おはよ。今、52ページやってるぞ」


「あ、おはよう楠くん!えっと…52ページだね。ありがと」


「柊、古典苦手なのか?」


「うーん、苦手っていうか嫌いかなぁ」


まぁ、そうだよな。柊は学年1位だし。でもやっぱり学年1位でも嫌いなものあるんだな。当たり前だけど。


「おーい、そこ私語は慎めー」


「「すみません」」


 古典のいかつい先生に注意を受け、俺たちは縮こまった。でもなんだかそれが嬉しかった。いや、怒られたのが嬉しかったわけじゃないよ?俺、Mじゃないし。ま、柊と一緒だったからだな。


 それからあっという間に時間は経ち、もう放課後になった。


「じゃあ、今日から準備を始めたいと思います。ではまず班分けを言っていくので各自、自分の場所に行ってください。まず、装飾係は───」


 柊が前に立ち、指示をしていく。俺は…装飾係か。お、やった!柊と高木と一緒だ。この2人がいれば最強だな。それにしてもやっぱり柊はしっかりしてるな。柊が全て言い終わると、俺たちは各自指示された場所に移動し、話し合いを始めた。

 

「まず、部屋のレイアウトについてなんだけど、机をここに30個置こうと思ってます。それで───」


 ここでも同じく柊が皆をまとめている。柊は皆からの信用が厚いから妥当と言えるだろう。


「でもそれは難しいんじゃないか?だって───」


 そこに高木がアドバイスや難しいところを言っていく。30分も経たないうちに良いアイデアが固まった。俺?……俺は完璧に傍観してました…初めの方は頷いたしちょっと話してたりもしてたんだけど、途中からこれ俺必要ないんじゃね?って思い始めてから全然喋ってないです。


「じゃあ、こういうことで良いかな?もう文化祭まで2週間切っちゃってるから急いで頑張ろう。多分、明後日までに生徒会からの机の貸し出し許可が得られると思うから。次はその時に集まろう。あとは…そうだなぁ。他のところも様子見たいからまだ時間に余裕がある人は他のところの様子を見てきてくれると嬉しいな」


 柊が最後をまとめ、解散になった。俺は時間があったので柊のことを手伝うことにした。


「柊?何か手伝うことはあるか?」


「え、じゃあどこか見に行って──」


「じゃなくて。柊の手伝い。大変なんだろ?生徒会」


「え、わ、私の?悪いよ、大丈夫大丈夫」


「無理するなって。ほら、見せて」


「あ、ありがとう」


「じゃあ俺は誰からすれば良い?」


「えっとまずここの資料の整理をお願いしても良いかな?ここを全部グラフと表にまとめないといけないんだけど。これ、私のUSB。この中に元というか結構データ入ってるから、見たらわかると思う」


「分かった」


「ごめんね。ありがとう、助かる」


「柊さんー、これってこのままで良いのか?」


「志乃ちゃーん、これってここどうなるの?」


「あ、ちょっと待ってねー。行ってくるね」


「おう。頑張れよ」


 そういうと柊はみんなに呼ばれて行ってしまった。本当に柊は人気者だなぁ。ハッ、も、もしかしていつの間にか柊が取られているのでは?って何だよ。俺は彼氏じゃないぞー。よしよし、やるか。


 それから1時間後。俺は机に突っ伏していた。


「終わった…」


 やっと終わった。思ったより量が多かった。生徒会の仕事を舐めていた…柊はいつもこんなことをやっているのか?尊敬ものだな。しかもこれ柊がデータをまとめておいてくれたから1時間で終わったのであってデータをまとめるのはどのくらい大変だったことか。


 荷物をまとめて教室を出る。もう辺りは暗くなっていた。昇降口につき、靴を履き替えようとふと下の段を見ると、柊の靴があることに気づいた。


 柊…まだ頑張ってるのか。待っておこうかな。今日はきちんと駅まで送り届けよう。よしっ

 

 俺は段々と暗くなっていく空を見ながら柊の顔を思い出していた。





 

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