第3話 文化祭に誘ってしまった…

 全ての授業が終わり、放課後になった。俺は、今誰もいない教室である人を待っている。窓から見る真っ赤な太陽がとても綺麗だ。廊下からドダダダと走ってくる音が聞こえ、ガラララと勢いよくドアが開いた。


「ごめんっ楠くん!遅くなっちゃた。生徒会に顔を出すだけで帰ってこようと思ったのに、みんなバタバタしてて手伝ってたら遅くなっちゃった」


 そう、ある人物とは柊のことだ。なんと俺は、柊と買い出しに行く約束をしていたのだ!つ、つつついにこのときがやってきてしまった…


「いや、全然大丈夫」


「そっか。優しいね」


「えっ?」


「え!?わーわー、そ、それよりも早く買い出し行こ!」


「そ、そうだな」


 俺の聞き間違いじゃなかったら、柊が俺のことを優しいって言った気がするんだけど。まあ、そんなことはないか。それよりもこの買い出しの時間を楽しむぞー!


 それから数十分後、俺と柊は学校近くの100円ショップに来ていた。ここは品揃えが良いので買い出しのものが揃っているんじゃないかと考えたのだ。


「何を買うんだっけ?」


「あ、ちょっと待ってね。えーと、猫耳カチューシャ10個、フェルト、おぼん…」


 柊が買うものを言っていく。結構あるなあ。


「どうする?別々に探して後でここで合流しよっか」


「え?」


「ん?……あっもしかして、楠くん…私と…そ、その一緒に探したかったり…する…?」


「え!?あー、ええとそうじゃなくて、いやそう思ってないわけじゃないけど。高いところにあったら取れるかなーと思って」


「あ、そ、そうだね。確かに、上の方にあったら取れないかも」


 何、言ってんだ、俺ええええええ!柊と一緒に探したかったんだろ!だからあのとき別行動しようって言われてつい、え?って言っちまったんだろ。ま、まあ。どちらにせよ一緒に探すことになったし。


「じゃあ、行くか」


「うん」


 気のせいかもしれないけど、柊の顔が少し赤いように見えた。それから、柊は買うものを次々と入れていった。全て揃い、俺達は会計をして店を出た。


「しっかし、沢山買ったなあ」


「そうだね。広いし、見つけるの大変だったから結構クタクタ…」


「あとは、これを学校に持って帰るだけだな」


「そうだね〜」


「メイド喫茶っていっても具体的にどうするんだ?」


「そうだねえ。今のところ決まってるのは、女子がメイド服を着て接客をして男子が厨房でつくるんだよね」


「男子に厨房任せるって大丈夫なのか?」


「うん。だから女子も少しは厨房に残ってって話をしたんだけど…もしかして寝てた?」


「ごめん」


「いや、いいよいいよ。6限に体育で水泳したもんねぇ」


 水泳!男子たちが柊の水着姿を見て喜んでたのを覚えている。チッ、最低な奴らめ。って言っても俺、彼氏でも何でもないんだよなぁ。友達と思われているかすらも不安なところだ。


「楠くん?考え事?」


「いや、なんでもない」


「そっか」


 すると柊はもじもじし始めた。言いたいけど言う勇気がない、そんな感じだ。あっ、俺も柊に聞きたいことがあったんだった。危ない、危ない。忘れるところだった。


「柊。文化祭の日、誰かと一緒に回る予定はあるか?」


「ふぇ!?あ、一日目は友達と回る約束があるけど」


「そっか」


「あ、いや、でも!2日目は誰とも約束してないよっ!?」


 ふー。深呼吸、深呼吸だ。さっきからずっとドキドキしてる。文化祭一つ誘うのにこうなって大丈夫か、俺。これからどうするんだよ!


「一緒に回らないか?2日目」


「え。あ、うん!」


 よっしゃー!本当にオッケーを貰えるとは思ってなかった。まじか、まじかあああ。どうしよ、俺。今めっちゃ嬉しい!


 それから俺たちは学校に着くまで何も話さなかった。でも、その空気感が心地良かった。無理に話さなくても良くて安心感があった。


「着いたね」


「ああ。なんか長旅をした気分だ」


「私もっ」


「とりあえず、教室に買ったもの置こう」


「そだね」


 教室にものを置いて、すぐに柊はお金を立て替えに職員室に行ってしまった。さて、どうしようか。柊は先に帰ってて良い、と行ったけど女の子を一人で返すのはちょっとな。仕方ない、待っておくか。……すみません。言い訳です。単純に俺が柊と帰りたいだけです。だって!こう思ってないと緊張するんだもん!それから何分くらいたっただろう。ガラガラとドアを開けて、柊が入ってきた。


「ふう。ってあれ、楠くん?」


「ああ。お疲れ様」


「な、なんで」


「柊と一緒に帰ろうと思って」


「そっか。ごめんね。待たせっちゃって」


「いや、俺が勝手に待ってただけだから」


「じゃあ、行こっか」


「ああ」


 俺たちは学校を出た。時間はもう七時前であたりは薄暗かった。



「そういえば、楠くんの家ってどこらへんなの?」


「お、俺の家!?」


「うん。どこなのかなーと思って」


 そ、そういうことか。家に来てくれるのかと思った。も、もちろん、変な意味じゃなくてな。まあ、下心が全くないと言ったら嘘になるけど。


「駅の近く」


「駅の近くかぁ。いいなあ」


「そうか?」


「そうだよっ。だって駅の近くって色々と交通が便利だし。そ・れ・に!美味しいカフェとかレストランとか沢山あるでしょ!?」


 そうか。柊たち女子高生はカフェとか好きだもんな。前に柊も友達とカフェ行ったって言ってたな。


「まあな。でもうるさいぞ?」


「それがいいんじゃん!なんか電車の音、聞いてると都会って感じするし」


「そうかな。小さい頃からずっと聞いてるとただの騒音にしか聞こえないぞ」


「あはは。確かに。それはそうかも。やっぱり時々聞くくらいが丁度いいかも」


「なんだよ、それ」


「あはは。じゃあ、楠くんの家に行ったときに電車の音を聞いて都会感を味わおうかな〜」


「どうぞ、都会感を存分に味わって下さい」


「うん!そうする。あ、そーだ。楠くんの家って一軒家?」


「うん。そうだよ」


「なら、良かった。多少騒いでも大丈夫だね」


「騒ぐために一軒家にしたわけじゃないぞ」


「えー?建てたのはお母さんとお父さんでしょ?騒いでほしくてそうしたのかもよ?」


「そんなわけあるかっ」


 ん?ちょっと待て。なんにも違和感なく、話してたけどさっき柊なんて言った?楠くんの家に行ったときに?ちょっと待て。この言葉の意味を考えよう。家に行く…つまり俺の家にくるってことか?マジ?柊が、うちに?そんなの大歓迎!うんうん。で、次の言葉…騒いでも大丈夫だね。騒ぐ?何をして?いやいや、深く考えるのはやめよう。ここまで柊との会話がうまくいってるんだ。


 俺が会話の続きをしようと横を見ると、そこには顔を真っ赤にした柊がいた。


「ひ、柊?」


 あ、やべ、声、上ずっちまった。


「あ、ええと。わ、わたしここでいいや。じゃあねっ」


「お、おう。ま、また明日な」


 柊…走って行っちまった。せっかく上手く会話できてたんだけど。まあ、明日また話せばいいか。俺も帰ろ。あっ、やべ。麻衣に連絡してなかった。怒られるっ。


 結局、コンビニで弁当を2つ買って帰ったが麻衣にめちゃくちゃ怒られた。


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