7月30日

「気持ちよくなるからね」

 そう言われて向けられたのは小さな注射器だった。銀色の針が光る。滑稽なほどに体がガタガタ震えている。呼吸も浅くなっていく。

「あぁこんなに震えちゃってかわいそうに。大丈夫だよ。ちょっとチクッとするけど、そんなに痛くないからね」

 嘘だ。この人が今から俺に何をしようとしているのか大体見当がついている。いよいよ本当に人生が終わる気がした。いや、終わるんだ。今。


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だやめてやめてお願いしますなんでもするからそれだけはやめてくださいお願いしますお願いだからやめてよやめて俺まだ生きていたいよお願いだからもうなんでもするからそれだけはやめてくださいお願いなんでこんな目に僕が何をしたっていうんだ怖いよやめてごめんなさい謝るから許してよねぇお願いやめてそれを向けないで刺さないでまだ普通でいさせてよなにしても良いからお願いやめてやめてやめてやめてやめてやめて誰か誰か誰か誰か誰か誰か


 ーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る