第1話 〜市街フィレンツェ攻略編〜「草原に浮かぶ炎陣」
心地よい風に頬を撫でられながら、俺は空を見つめていた。
「………ここ、どこだ…?」
と、ぼそっと呟く。
…たしか、駅のホームで意識を失って・・・。
すると、ギャオオオオオオ‼︎という、聞いたことの無い獣の激しい咆哮が、地鳴りのように近くから聞こえてきた。俺は慌てて上半身を起こす。
周りを見渡すと、草原の真ん中に巨大な猪がいて、鼻息を荒くしながら、こちらへ突進の構えを見せていた。
よく見ると、手前には銀色のツインテール少女が一人倒れている。
どうやら、今さっきの咆哮でようやく目覚めたらしい少女は、モンスターに気づいていないようだ。
俺はモンスターが地を蹴ったと同時に、
「おいっ!!あぶねえぞっ!!」
駆け出していた。
間一髪のところで、俺はモンスターに怯み動けなくなっていた少女の身体ごと、転がり込む。
「きゃあっ!!」
「お、おい大丈夫か!?」
デカ猪は突進を外し、鼻息をいよいよ荒くしながらこちらを睨んでいる。
そして、もう一度その地を蹴った瞬間、俺は目を瞑った。
(この距離じゃあ、物理的に避けきれねえ・・・)
諦めかけたとき、ふとその呪文の様な詠唱は聞こえてきた。
「精霊使いが命ずる。炎よ、辺りを紅蓮に染め、己の場とせよ、
突如、目の前に円形の炎が出現し、デカ猪を中に閉じ込めた。
「な…なんだよ。これ…」
「大丈夫だったかしら?」
振り向くと、銀髪の少女の肩にはテニスボールほどの赤色のちっこい光が、ふわふわと浮かんでいた。
猪は急に現れた炎の円陣に身動きが取れずにいる。
…この女、、、そういえば、ホームで俺を・・・。
俺はここに至ったまでの経緯と、後ろで燃え盛る炎の熱さで頭がこんがらがり、呆然と立ち尽くしていた。
「殺すと厄介だから、ここに閉じ込めておくうちに逃げるわよっ」
銀髪の少女はそう言うと、俺の手を引っ張り、勢い良く走り出したのだった。
♢
隣で歩く銀色少女の話を遮り、俺は口を挟んだ。
「ここは異世界で、さっきのは近隣のモンスター。ちなみにお前がさっき使ったアレは精霊の炎魔法。ここまでは合ってるか?」
「ええ、そうよ」
「そ、そうか…」
俺は話を整理し、何となく状況を理解したところで、
息を大きく吸い込み、
叫んだ。
「よっしゃぁぁぁああ‼︎‼︎‼︎‼︎」
「ちょ、いきなりなによっ⁉︎」
「あぁ…わりぃ。つい、、、な」
俺は笑ってはぐらかした。いまとなっては普通に会話しているが、改めて見ると、とてつもなく可愛い。
こんな美少女に言えるわけないだろ・・・。
(俺、アニメめっちゃ好きで、異世界とかこーゆうの、死ぬほど憧れてたんだ‼︎)
いやいや、絶対口が裂けても言えるわけない。
「なに考えてるの?」
横で話し掛けてくる美少女に、俺は胸の内を探られないよう、口笛を吹いた。
ーピュ〜ピュ〜ピュ〜♪
元の世界では、社会的に淘汰される地位にいた。当然周りにもそういう奴らしかいなかった。
見た目は黒髪短髪、服装も基本ワイシャツにチノパンで爽やかな青年を心掛けていたが、スカウトはスカウトだ。
だが、俺は休日にはよく仲間に秘密で、カフェに行きラノベを読み漁っていた。
元はと言えば、家賃滞納だって仕事に行かず家でアニメを見過ぎたことによる結果だ。。。
来る日も来る日も寝る前、神様にまでお願いした念願の異世界転移をこうして果たし、俺は喜びのあまり叫んでしまったんだ。
「ちなみに、俺はなんでここに連れてこられたんだ?」
「それは後で話すわ。それより先に、冒険者登録をしておかなくちゃね」
銀髪美少女は微笑を浮かべそう言うと、指を差した。
前方には大きな街が見え、門の前には二人のリザードマンが斧を持ち、悠然と構えていた。
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