異世界転移した俺は蛮勇勇者で、ハーフエルフといつも始まりと終わりに無茶をする

とあラノ

プロローグ 「転機」

 人が行き交う真昼間のショッピング街で今日も俺は、

「おねえさん、おねえさんっ‼︎」

「………………」


 街行く女の子たちへ、

 迷惑防止条例法違反スカウトに汗を流す。


 キャバ嬢風な見た目全身きらきら女は、無言で通り過ぎていった。

(別に話くらい聞いてくれたっていいじゃねえかよっ)


 ードンッ!!


 突如、肩に軽い衝撃を受けた俺は、行き場のないフラストレーションをこの際、通りすがりの他人にぶつけてやろうと、威勢よく振り返る。


 そして、思わず息を呑んだ。


「……ッ!!??」


 シルバーグレイ一色の髪、長く伸びたまつげの下に覗く、くっきりとした大きな瞳。それは微かに銀を帯び、とても神秘的な光を宿していた。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


 目の前に立つスタイル抜群、超絶美少女は上目遣いでこちらを覗いている。

 美しいものを目の当たりにすると、言葉が出ないって聞いたことがある・・・。


 それ程までに、少女は美しく、まるで天使のように純白なオーラをその華奢なからだに纏っていた。

 長いまつ毛の下の瞳は凛と揺れ、からだをしゃがむように少し屈曲させ、美少女は上目遣いで聞いてきたのと同時だった。


「だ、だいじょうぶですか…?」

「あ、あのさ。おれスカウトでっ!!」


「………………」



 急に口を突いて出た言葉は、馬鹿正直で機転の効かないものであった。


 (おいおい、おれなにゆってんだよ………)


 黙り込む美少女を前に、俺は冷静にこの状況を分析した。

(だが待てよ普通の女の子であれば、スカウトだと認識した途端、先程の女みたく死んだ魚のような目で180度回れ右、という顛末になるはずだ)


 俺は恐る恐る口を開く。

「あ、あのっ!!おねえさん綺麗ですねっ!!」

「………………」

 返事は無い。


「その、おねえさんお仕事とかって…」

「ヘルス紹介できますか?」

「へいっ??」


 ーまさか、こんな美少女が唐突にヘルス御所望ですか!?


「え、あ、はい。紹介できますけど……」


 急過ぎる展開に、先月に続き今月売上ゼロの俺は、喉から手が出るほど美味しい状況に、あまり乗り気じゃない感じで返事していた。


 ♢


 ーバタンッ!!!!!!!


 机を叩き、俺は席を立ち上がった。バナナ・ミルク・スムージーが零れ、床に滴っている。

「ふ、ふざけんじゃねえよっ!!」

「ふざけてないわっ!!」

「いいや、ふざけてるねっ」

 俺は嘲笑うようにして目の前の美少女を見下した。

 どこに一日100万稼げる店があるって言うんだ・・・。

「悪いが、そんな店どこを探してもないねっ」

「あるわっ!!」

 銀髪超絶美少女は真剣な眼差しで口応えしてくる。

 そろそろ美少女といえ、これ以上の冗談に付き合ってる暇はなかった。


 ただでさえ、家賃も滞納し生活費に困る俺にとって、面接時のカフェ代だって惜しいほどだった。。。


「そうやって遊んで何がたのしいってゆうんだよ!?ああ?いちにち100万稼げるだァ?そんな世界あるならぜひおれを連れていって欲しいね」


 頭の中で、美少女に囲まれふんぞりかえる金持ち勇者をイメージし、そんな異世界みたいな所ねえかなぁ、ともぼやいた。

「あるわっ!」

 冗談のつもりだった。そこで美少女が折れて、からかったことに対する謝罪の言葉一つでも聞ければそれで良かったんだ。


「そうか、じゃあそこに行ってくれ…」


 冷たく突き放すように言葉を残し、俺は店を出た。


 ♢


 電車に揺られながら、


「今日も収穫無しか………」


 と、ぼそっと呟く。


(あの野郎、人を馬鹿にしやがって)


 今でも鮮明に昼の情景が脳裏に浮かび上がった。


 銀色に輝く髪、ぱっちりお目目に銀色の瞳。華奢でいまにも折れそうな体。そのひとつひとつがまるで羊肉のように、あたまをひきずって離れなかった。


 〜ティリリリリリ〜♪ティリリリリリ〜♪次は〜○○駅に止まります。お降りの際は、くれぐれも足元にご注意ください。まもなく〜○○駅、○○駅にご乗車致します。


 最寄り駅のアナウンスが流れ、俺はドアの前に立った。


 ープシュー


 自動ドアが開き、ホームに足を伸ばし降りようとした時、


 俺は強く肩を誰かに掴まれた。


「ッッ!!!!!!!???????」


 慌てて後ろを振り返ると、


 そこには、昼に遭遇した銀髪の超絶美少女が駅のホームで勇ましくこちらを睨んでいた。

「言ったわよね?」

「はぁ!?おまえなにゆって………」

 銀髪野郎は再び俺のからだへと触れた。


 優しく、今度は手のひらでそっと。


 スーっと水が流れるように俺の意識はそこで朦朧とし始め、やがて平行感覚を失い、


 ………あれ、前にもこんなことあったっけ。


 記憶の糸を手繰っていた。昔、女の子を酔っぱらい客から道端で助けたときのことを俺は思い出していた。

 俺は盛大にその男から顔面パンチを浴び、ぶっ倒れた。


 あれ、あの時の子こいつに似てるような………。


 俺の意識はそこで完全に、シャットダウンしたのだった。

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