第3話 「閃光の勇者」
「ちょっと待ちなさいよカケルっ!!」
後ろで叫ぶシルフィーの声を無視し、悲鳴のしたほうへ俺は全速力で駆け抜けていた。
すぐに半壊した家屋が視界に入り、スラッシュアックスのような物を手にした男、そいつは2mはあろう身長、ムキムキの上に鎧を一枚身に付けていた。
「やめてぇぇえ!!お母さんをいじめないでぇっ!!」
「この餓鬼ァッ!!どかねえと殺しちまうぞ…?」
男の足元には、子供の女の子がしがみつき、今にも男の手にあるスラッシュアックスで喉元を切り裂かれそうだった。
「おいてめぇ、なにしてんだそんな小さい子に!!」
「アアン…?だれだテメェ…?俺様が誰だかわかってッ!?グワッ!!」
俺は勢いに任せ、そいつを思い切りぶん殴った。
拳の骨がズキンズキンする・・・。
「おォ、テメェやってくれたなオイ…」
男は大したことなさそうに舌なめずりをした。
「ッッ!!!!????」
次の瞬間、俺は吹っ飛んでいた。いったい何が起きたのか、理解できなかったが、顔面に強い衝撃を受け、俺は地に転がる。
男の足元にいた女の子は震えてしゃがみ込んでいた。
(…よかった…。あの子から注意はそらせた、みたい、だな…)
半壊した建物の玄関部分は吹っ飛び、奥の部屋のベッドには一人の女性が弱々しくこちらを見つめていた。
きっと、あの子の母親だろう。何か顔色が悪いが、大丈夫そうだな・・・。
後ろでは、恐らくシルフィーのものであろう叫び声と、魔法による打撃音が聞こえるが、俺はシルフィーがデカ猪にしたように、男の魔法か何かで緑色の結界らしきものの中に閉じ込められていた。
「おいおい、勇ましく登場したわりに、もう伸びちまったのか…?」
「う、うるせえ…よ」
「まだまだお楽しみはこっからだぜ、銀髪のハーフエルフが見てる前でいたぶって殺してやるからなァ糞餓鬼ァッ!!!!!!!!」
男はそう下品に言い、スラッシュアックスを振りかざした時だった。
緑の結界が霞む視界の中でガラスの破片のようにバラバラに砕かれ、
ーカキィィィィィインッ!!
金属の擦れる音が耳に心地よい音を立てて流れ込んだ!!
「大丈夫かい、青年」
「お、おまえはだ、れだ…?」
「僕の名前はルイ、勇者だよ。よく持ちこたえてくれたね。善良なる市民を助けてくれたお礼を言うよ。ありがとう」
そう言うと、銀色のアーマーを着た金髪の美青年は、スラッシュアックスを受け止めている剣を横に翻し男の体重を逸らしてから、まるで閃光のような速さで剣を男の腹元下方から上へ切り裂いた。
「グアアアァッ!!!!!!!!」
「致命傷は外したか。次で決めるよ」
「なんで、こんなところに閃光のルイがいんだチキショウ…。わかった…もう、やめる、それで勘弁してくれ、な?勇者さんよ…ッ!!」
血飛沫が上がる。それはシャワーのように俺の頭上を舞った。
♢
「怪我はないかい?」
「あ…おう。少し頭がクラクラするくらいだ…」
「ハハハッ」
美青年は爽やかに笑った。アーマーは光り輝き、胸元には龍のエンブレムのようなものが付いている。
「本当に大丈夫?カケル。無作為に飛び出すからそうなるのよ」
「いてもたってもいられなくてな…」
叫び声のした時、俺の体は勝手に動いていた。必死に母親を守っていた女の子も無事で何よりだ。
「それより、キミ。あいつに無作為に飛び出したと横のハーフエルフの女の子が言っていたが、畏怖しなかったのかい?体格はキミ三人分はあったのに」
「ん、しなかったな」
「そうか…」
美青年は突如、腰の鞘に収まった剣を抜き、俺の喉仏スレスレで止めた。
「なんのつもりだ?勇者さんよ…?」
「あぁ、いや、なんでもないよ。すまない。これは収めるよ」
「はぁ…?いったいなんだったんだ…」
「この、聖剣クレヴァリーにキミはチャームされなかった。キミはいったいなにものなんだ?みるからに、冒険者…というわけでもなさそうだし…」
助けを求めるべく、後ろを見るが、シルフィーは戦慄したように固まっている。
「なにものっていわれてもな…」
「もしかしたら、キミは…。いや、そんなことない、か…」
美青年はそこで言葉を止め、とりあえず善良なる市民を守ってくれたこと、一片の勇者として深くキミにお礼を述べたい、と言って深く頭を下げた。
俺は目の前の律儀な勇者が結局何を言いたかったのか、
わからないままだったが、その様になり過ぎた勇者の礼に、どこかくすぐったくなったのだった。
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