第15話 事後

「やぁ、よく来てくれたね」


 裁判が終わって2週間後。金曜日の夕方。

 陽一は山崎弁護士の事務所を訪れた。

 

 山崎弁護士に来てもらえないかとお願いされていたのだ。


 応接セットのソファに向かい合って座る二人。


「佐々木美代子さんは、どうなるのですか?」

 陽一は単刀直入に聞いた。

 

「依頼人は実家に引き取られることになったよ。母親のもとでしばらくゆっくりするそうだ」

「そうですか」


 陽一は、いつものようにうつむき気味で話す。

 ぼさぼさに伸びた前髪で表情はうかがい知ることができない。


「彼女、実家に向かう前に、感謝の言葉を言ってくれたよ。”ありがとうございます”と」


 それを聞いた陽一はビクッと体を震わせ小さくつぶやいた。


「・・・これでよかったのでしょうか・・・」

「少なくとも、依頼人は感謝していたよ」


 それを聞き、陽一は大きく息をついた。


 ふぅ・・・と。


「ところで、失礼だが君の両親は何をしてるのかな?」


 山崎弁護士は不思議に思っていた。

 この少年は、裁判のすべての日程で傍聴に来ていた。

 おそらく学校に行っていないようだ。

 その状況を、普通であれば保護者が許しているとは思えない。


「そうですね・・・先生になら話してもいいです。僕の家庭のこと・・・過去のこと・・」


 そして、ゆっくりと陽一は語りだした。






 次の日の朝10時。

 山崎弁護士の婚約者である飯田美幸が扉を開けて事務所に入り照明をつけた。


 そして目に入って来た光景に驚き、声を上げてしまった。

「きゃ・・・・」

 

 ソファに2名の人物が、それぞれ横なっていたのだ。

 すぅ・・・すぅ・・と二人とも寝息を立てている。



 驚いたが・・・婚約者が最近眠れていないことを知っていたので、そのまま寝かせておくことにした。


 それぞれが眠っているソファの間にあるテーブルの上には書類が散乱していた。

 片付けようと取り上げてみると、この間の案件の資料であった。

 どうやら、それを見ながら話し疲れて眠ってしまったようである。


 起こさないよう、そおっと書類を片付けていく。

 

 橘陽一の前の資料を持ち上げた時に気が付いた。


 そこには被害者である佐々木和夫と加害者の佐々木美代子の家族構成が記載されていた。

 佐々木和夫の両親はどちらも故人。


 なぜか、その故人となっているそれぞれが赤線で囲まれていたのだ。


”なぜだろう・・・”


 不思議に思って、その資料を見る。

 佐々木和夫の両親は、佐々木和夫と美代子が結婚する1年から2年前に相次いで亡くなっている。


 それぞれ病死。


 

 でも、なぜその部分に印をつけたのだろう?




 

 飯田美幸は、ふと思った。


 もし、これが・・・病死でなかったら?

 もし佐々木和夫が・・・自分の両親を・・・薬品で殺していたとしたら。


 そして、彼が結婚したのは新たな実験対象が必要になったせい?



 目の前で眠っている少年はそのことに気が付いているの?

 知っていて黙っている?



 すぅすぅと眠る少年。



”まさかね”


 たしか、この少年は名探偵と呼ばれていたと聞いてる。

 気づいていたら黙っているはずない。



 頭を振って、考えを追い出すと残りの書類を静かに集め始めた。

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