第13話 事件の経緯
陽一は初めて裁判の傍聴を経験した。
想像していたものとかなり異なる。
思ったより、狭い部屋である。
傍聴席と法廷は結構近い。
そして、裁判の進行についても想像と違った。
検察と弁護士がお互いの主張を声高に述べることもしない。
そもそも、公判前整理手続きでお互いの証拠と主張をすり合わせているのだ。
淡々と、裁判員に対して事件の経緯を説明する。
しかも、わかりやすい言葉で説明していく。
事件の経緯は、検察官によって簡潔に説明された。
被告人である、佐々木美代子は夫である佐々木和夫の胸を刺して殺害した。
即死である。
被害者からは睡眠薬が検出されている。
被告人は、殺害後5日たってから警察に通報し自首した。
証拠として包丁や指紋が提示された。
動機としては、被告人は黙秘している。
ただし・・・
自宅からは、注射器や複数の薬品が見つかっている。
日本国内では認可されていない薬品が多い。
ネット通販などの注文履歴が見つかっている。発注者は被害者。
かなり以前から、様々な薬品を入手していたようである。
使用済みの注射器の針から、被告人と一致する血液型の血液。そしてDNA。
そこから類推されるのは、被害者が被告人に薬品を使用していたという事である。
逮捕時に麻薬などの薬物を使用していないか検査した際の被告人の血液を分析したところ、肝臓にかかわる項目が異常な数値を示していたことも証拠として提出された。
その時、うつむいたままだった被告人である佐々木美代子の方がビクッと震えた。
その後も、小さく震えている。
大学の友人や同僚の証言から判明したが、被害者は製薬会社において生産技術部門に配属されたことに非常に不満を持っていたようである。
もともと、開発志望だったがかなえられられなかったことを、飲むたびに愚痴を言っていたのだ。
そして、いつか見返してやると言っていた。
一度、泥酔したときに被害者は、独自に研究している・・・それが完成すれば、他の会社に転職するつもりだと言っていたとのことである。
被害者は自分の妻を実験台にして研究をしていたのだ。
そして、事件の2週間前に被告は流産で入院している。
流産の要因と、被告人による投薬の因果関係は不明である。
しかし、被告人が投薬が原因と考えたとしても自然であろう。
「う・・・・うう・・・・うう・・・・」
黙ったままであった被告人が、いつのまにか声を漏らしていた。
涙を流して、泣いていたのである。
「弁護人としては、被告人に情状酌量の余地ありと考えます。被告人が夫から長い間受けてきたことを、ぜひ考慮いただきたいと思います」
山崎弁護士が、裁判員たちに話す。
明らかに、当惑した表情の裁判員たち。
だれも、声を発しない。
明確な言葉にはされていなかったが、被告人は被害者によって虐待されていたようなものである。
一般人である裁判員たちは、どのような判断をすればよいか悩むのであった。
裁判員の一人が、声を発した。
「裁判長、質問をしてもよろしいでしょうか?」
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