第12話 開廷

「君・・・何の用だね?」


 地方裁判署の守衛室から守衛が、少年を呼び止めた。

 白いTシャツの少年。中学生くらいだろうか。

 髪はボサボサで、痩せている。

 Tシャツがぶかぶかだ。


 しかも、今日は平日。

 裁判所に来るには、場違いな感じがする。


「・・・裁判の傍聴に来たんです」

「あぁ、社会科見学?」

「いえ、知り合いが裁判に出るので」


 なんとなく理解した。

 親戚が加害者か被害者なのだろう。


「それじゃあ、そこに掲示している表を見て法廷に行けばいいよ。席が空いていれば傍聴できる。

 ただし、立ち見はできないので注意して」

「ありがとうございます」


 そう言って、少年はちらっと開廷表を見て廊下を歩いて行った。

 どうやら、どの法廷に行くかはわかっていたらしい。



 少年・・・橘陽一である。


 今日は、例の殺人事件の裁判が行われるのだ。





 法廷で、検察官が起訴状を読み上げた。

 それを被告である女性・・・佐々木美代子が証言台に立ってうつむいたまま黙って聞いている。


 裁判長が、被告人に話しかける。


「審理を始める前に、あなたには黙秘権があります。質問に答えないことも黙っていることもできます。ただし、この法廷で話すことは有利・不利を問わず証拠になります。わかりましたか?」


 被告人は、黙ったままペコ地と頭を下げた。


「それでは、起訴状にある公訴事実に間違いはありますか?」


 被告人は、黙ったままである。


「弁護人の意見はいかがですか?」


 山崎弁護士が答える。

 

「被告人がご主人を殺害した事実について、争うつもりはございません」


 裁判員が、ざわっと動揺した。


「ただし、先ほどの起訴状で一点だけ・・・被害者に睡眠薬を投与したのは被告人ではありません」


 それを聞いた検察官は、えっ・・・といった驚きの表情をした。



 裁判長が告げる。

「被告人は席に戻ってください」



「それでは、検察官と弁護人のそれぞれの主張を聞きます。検察官より、冒頭陳述をどうぞ」


「はい」


 検察官は立ち上がり、プロジェクターに資料を映し出し説明を始めた。




(つづく)

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