第7話 夜明け

 陽一は再び無言となってしまった。

 何考えているか、うかがい知れない。


 高崎は、資料の続きを読み始めた。


「犯行現場は寝室のベッドの上。移動された形跡は無し。

 被害者は、胸を刃物で何度か刺されていた。

 遺体の周りには氷や保冷剤が置かれていた。おそらく腐敗を防ぐためであろう。

 現場の状況では、争った跡は無し。

 被害者の血液から、睡眠薬が発見されている。

 睡眠薬で眠っている間に犯行が行われたと思われる。」

 

 資料をめくる。

  

「容疑者のAさん。29歳。専業主婦。

 O女子大卒。趣味は料理やお菓子作り。

 被害者のBさん。 T大学薬学部卒。29歳。U製薬会社で生産技術者として勤務。趣味は、昆虫や生物の標本作り。


 二人が知り合ったのは、J高校で同級生だったとのこと。高校生の頃から交際。

 大学卒業し3年後に結婚。近所の評判では夫婦仲は良いとのこと


 借金は無し」

 

 経歴からすると、夫を殺害する理由が見当たらない。


「二人共に浮気していると思われる兆候はなし。友人の供述では、二人とも愛し合っているとのこと」


 誰から見ても幸せな夫婦。

 その夫婦生活に、唯一起こった暗い影。


「事件の2週間前、Aさんは産婦人科に入院。妊娠50日目において流産とのこと。かなりショックを受けていたそうだ。流産の原因は不明」


 わかっていることは以上。

 殺人を起こすような理由・・・動機が見つからない。


「不審な点はいくつかある。まずは、殺害してすぐに通報しなかった件。なぜ容疑者は・・・」


 山崎の声を遮って、ソファに座ってうつむいたままの少年がつぶやいた。


「・・・Aさんに外傷は?」

「え?特に聞いていない。私が見た感じは傷などは無かったが・・・?」

「・・・血液検査の結果は?」

「被害者の血液検査の結果は・・・」

「Aさんの」

「え?」


 被害者の検査は行われているが、容疑者の血液検査は行なっていない。


「肝臓の数値」


 窓の外は、少しづつ明るくなってきて来た。

 夜明けが近い。


 山崎は、少年が何を考えているか全く理解できない。

 あれだけの情報で事件の真相が分かったという事なのだろうか?

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