第4話 無言の空間

 夜中の3時。


 高崎真と橘陽一は、応接セットのソファに向かい合って座っている。


 目の前のテーブルには、買ってきてもらった食料・・・おにぎりやサンドウィッチやペットボトルの水・お茶・コーラが並んでいる。


「遠慮くなく、食べてくれよ」


 と声をかけて、高崎はおにぎりを食べたのだが陽一は手を付けようともしなかった。


「眠かったら寝てもいいよ」


 とかけた言葉にも無言。


”まるで野良猫みたいだな”

 

 全く眼を合わせようともしない陽一を見ながら、高崎は思った。


 陽一から出ている異臭は・・・だんだんと慣れてきた。

 臭いは臭いが、耐えられないほどではなくなっている。


 それから1時間・・・黙って向かい合い座っている。


 高崎は、無言で扱っている案件の資料を読み返している。


 だが、全く頭に入ってこない。文字を目で追っても思考がついて行かないのだ。


 原因は、極度の睡眠不足。

 だが、眠たくても眠れない状況が続いている。


 

 陽一は陽一で思っていた。


”この人、まだ寝ないのだろうか?”


 目の下の隈を見るまでもなく、この人も寝不足のようである。

 居眠りでもした隙に出て行くつもりだった。

 だが、まったく眠る気配がない。



 静かな事務所の中を、ページをめくる音だけが響く。


 

 やがて、高崎は眼鏡を外し、眉間を右手で揉んだ。

”いかんな・・・まったくわからない・・・”

 正直、今の案件は完全に行き詰っていた。

 弁護の方針さえ定まらない。


 そんな高崎のことは全く意識にないのか陽一は床を見つめ続けている。


 高崎は、ふと思った。

 この少年だったら、どう考えるのだろう?


「だめだ。考えがまとまらない。ちょっと独り言を言うが気にしないでくれ」


 高崎は、資料を見ながら言う。

 陽一は、無反応。


 それを見て、高崎は拒否の意思はないと判断。

 話を続けた。


「この案件は、私が国選弁護士として担当することになった案件で・・・」

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