第0話 桃色の戯れは苦やかにつき。
ふと、戯れをしようと思った。
わたくしは、扉が開いたままの隠し部屋を覗き込み、
「ベリタ」
と、隠し部屋の机を布巾で清めている桃巫女のベリタに声をかけた。
「はい、リスタリカ様」
見上げる。
隠し部屋の扉を閉めた。
机の天板を指でなぞりながら、
「きちんと、励んでいるようですわね」
とわたくしは声をかけた。
「ありがたいお言葉です」
「ご褒美をあげるわ」
そう言うと、わたくしは両の膝を床につけ、ベリタの両頬にそっと手を添えた。
幼女と呼ばれる年齢を越えて間もないベリタの頬は柔らかだった。
ベリタの唇に、わたくしは唇を重ねた。
彼女の唇はさらに柔らかった。
この聖神殿のつまらない日々に、わたくしは、を終えたわたくしは、ベリタの前で作りものの慈しみの表情を浮かべてはいたけれども。
✧
隠し部屋の扉がノックされた。
執務室に戻ると、予想通りに、「たとえ女子同士であっても、貴族院に通う年頃のお嬢様が隠し部屋で二人切りとなることはあってはならないここです」といった、護衛騎士のイヴァンナの小言が待っていた。
「わかりましたわ、イヴァンナ。ベリタとちょっとした戯れをしてみようと思っただけでしたのよ……」
わたくしは、小言を終えたイヴァンナにしんなりとした表情で応えた。
中級貴族の出ではあるが、成人し貴族院の教員免許も持っているイヴァンナ。彼女は、間もなく北方の
わたくしは、不本意ながら郷土領エーリクフェンの聖神殿で謹慎中の身。
貴族院の教師に請われ、通うことにした魔法科学校。そこに、生意気な平民の小娘がいた。少し思い知らせてやろうと取り巻きを炊きつけていたところ、第2王子が平民の小娘の側に立った。わたくしは、騒動の火種になったとして貴族院からまさかの停学処分を受け、郷土領に戻らされたというわけ。
上級貴族であるわたくしだったが、今はイヴァンナの小言を割りと素直に聞くことにしている。この屈辱的な謹慎生活を早くに終わらせるために、ね。
✧
それに、
もうしないわよ。
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